朧木君の非日常生活(5)
「いつからいたんだ・・・・・・」
「初めからだよ、朧木くん。初めからいたじゃないか。君が認識しようとしなかったから見えなかっただけ。君が認識しようとしたから見えただけ。それだけの話じゃないか」
認識してなかった。その存在を信じなければ認識しようとはしない。
だから見えなかったのだ。
見えなかったのではない、意識の問題。
例えば、黒いテーブルに黒いシャープペンの芯を置いてみる。その芯の存在を知らない人が黒いテーブルを見たら、ただの黒いテーブルだ。しかし、シャープペンの芯の存在を知っている人が見たら、必ずしもシャープペンの芯に目が行く。
蜻蛉さんは、信じていたの、天狗な存在を。
「正に滑稽だよ、朧木くん」
うるさい。天狗の存在を信じてたのは、あなたくらいです。
俺は一般庶民なんです。
「主達は人の子らか?」
天狗が低い声を放つ。
俺たちを見下ろしながら。
いや、見下しているのかもしれない。
神域を犯した人間を。
犯してはならない領域に足を踏み入れてしまった人間を。
――否、人間をじゃない。
興味本位で神を侮辱した俺たちを、だ。
「何ゆえ彼の地に迷い込んだ」
迷い込んだのではない、だって俺たちは自らの意思でここに来たのだから。
「道に迷いまして・・・・・・」
我ながらバカだ。アホだ。どうしようもないくらいに。
「主は、我を馬鹿にしておるのか?」
天狗は、明らかに憤怒の表情を出している
「いえ、申し訳ございません」
蜻蛉さんが変わりに頭を下げた。
そして、小声で話し始めた。
作品名:朧木君の非日常生活(5) 作家名:たし