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遼州戦記 保安隊日乗

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「照準補助!敵機の位置は!」 
 叫び声、カウラのものだ。誠は自分を取り戻そうとヘルメットの上から顔面を叩く。 
「行きます!」 
 ようやく搾り出したその言葉。誠は機を干渉空間を避けるようにして、敵の牽制射撃の中、突撃する。
「主力火器で関節なんかを撃たれなければ!」 
「やめろ!誠!」 
 カウラの言葉が誠の意識に到達した時、誠は既にサーベルを振り上げていた。 
「落ちろ!」 
 誠は全神経をサーベルに集中した。サーベルは鈍い青色に染まり、誠の機体にレールガンを放とうとする敵隊長機を切り裂いていく。
『なんだ!これは!』 
 驚愕する敵指揮官の断末魔。もはや誠は意識を手放しかけていた。
 一機が誠の機体の後方に回り込み、照準を定める。サーベルを振り切った状態の誠機は完全に後ろを取られた形になった。
『死ぬのか?僕は』 
 誠は思わず目を瞑っていた。しかし敵機が発砲をすることは無かった。
 カウラの狙撃の直撃をエンジン部分に受け、火を吹く敵機。
「後、一機だ!」 
「判りました!突っ込みます!」 
 うろたえる敵。誠は一挙に距離をつめ、サーベルを敵機のコックピットに突きたてた。 
『死にたくない!死にたく……』 
 再び頭の中を駆け抜ける敵兵の意識。誠は額ににじむ汗を感じながらカウラの指示を待った。
「よくやった。だが西園寺が包囲されている。私はそちらに向かう。お前は帰等しろ」 
「奥の手ならあるぜ」 
 急に開いたウィンドウに巨大なヨハンの顔が映し出される 
「神前!すぐに干渉空間を形成しろ!」 
 ヨハンの言葉が響く。
「それで?」 
 カウラが怪訝な顔をしてたずねる。
「説明は後だ!神前、意識を西園寺の居る方向に飛ばせ!そのまま干渉空間を切り裂いて飛び込め!」 
「何がどうなってる!シュぺルター!」 
「僕!やります!」 
『無事で居てください!西園寺さん』 
 そう意識を集中する。敵機と近接戦闘を行っている西園寺の感情が誠の中に流れ込んできた。
「じゃあ行きます!」 
 目の前に展開された干渉空間をサーベルで切り裂いて、誠はその中へと機体を突っ込ませた。

「数だけは一丁前かよ」 
 要は撃ちつくしたライフルを捨てて、格闘戦用のダガーを抜いた。相手にした10機の火龍。うち6機は落としていたが、残弾はもう無かった。駆逐アサルト・モジュールらしく距離をとったままじりじりと迫る敵。
「終わる時はずいぶんとあっけないもんだな」 
 思わずもれる強がりの笑み。そして浮かぶ誠の顔。
「こんな時に浮かぶ顔があいつとは。アタシも焼きが回ったな」 
 ダガーを抜いた状態で機体を振り回してロックオンされた領域から逃げる要。捕捉されれば全方向から中距離での集中砲火を浴びるのは間違いなく、頑強な05式の装甲も持たないことはわかっていた。
『新入り!先に逝くぜ』 
 覚悟が決まり敵中へ突撃をかけようとしたとき、奇妙な空間が要の目の前に広がった。
「なんだ?」 
 死の縁を歩くのに慣れた要の頭の中は瞬時に現状の把握に向かった。白銀に輝く壁のようなものが要の前に展開している。
 敵はこちらが動いたと勘違いしたのか、壁に向かって集中砲火を浴びせるが、すべての敵弾はその鏡のようなものの中に消えていった。敵が驚いて統率の取れない射撃を始めたということから、少なくとも敵ではないことを要は理解した。
『僕が囮になります!今のうちに後退を!』 
 要の頭に直接話しかけてくる声。誠のその声に何故かほっとして肩の力が抜ける要。
「おいおい、誰に話してるつもりだ?オムツをつけた新入りに指図されるほど落ちぶれちゃいねえよ。敵さん二機は確認した。後はオメエが勝手に食え!」 
 そう言うと要は誠機に着弾した敵弾のデータを解析したもののうち、手前の二機、固まっている火龍に向け突撃をかけた。
 火龍のセンサーは自分で撒いたチャフによって機能していないのは明らかだった。
「馬鹿が!いい気になるんじゃねえ!」 
 目視確認できる距離まで詰める。ようやく気づいた二機の火龍だが、近接戦闘を予定していない駆逐アサルト・モジュールにはダガーを構え切り込んでくるエースクラスの腕前の要を相手にするには遅すぎた。
「死に損ないが!とっととくたばんな!」 
 すばやく手前の機体のコックピットにダガーが突き立つ。もう一機は友軍機の陰に隠れる要の機体の動きについていけないでいる。
「悪く思うなよ!恨むなら馬鹿な大将を恨みな!」 
 機能停止した火龍を投げつけながら、その影に潜んで一気に距離を詰めると、要は二機目の火龍のエンジン部分をダガーでえぐった。
『誠!生きてるか!』 
 要がそう思った時、急に青い光がさしたのでそちらを拡大投影した。誠の機体から青い光が伸び、すばやく切り払われた。三機の火龍がその光を浴びて吹き飛ばされていた。
 そしてその中央で青い光の筋に照らされながらふり返る灰色の神前機。
「マジかよ」 
 息を呑みながら要はその有様を見ていた。



 今日から僕は 27


「何が起きたんだ!」
 近藤忠久中佐は、『那珂』のブリッジで、焼かれていく友軍機の映るモニターを見つめていた。閃光の中、同志達が焼かれていく光景は、これまでの本部勤務では仏頂面で通してきた彼には珍しく恐怖の表情を浮かべさせた。
「あれが資料にあった法術系兵器の威力だというのか?」 
 サーベルをぶら下げただけ、動きは訓練課程が終わったばかりというような敵機に翻弄され、壊滅した彼の同志達。確かにエース揃いの保安隊を相手にするには数で押すしかないと判ってはいた。法術兵器の投入も予想はしていた。
『しかし、これほどとは』 
 沈痛な眼差しで映像を繰り返し見続けるブリッジクルー達。誰もがいかなる困難があろうと祖国・胡州の栄光の回復へつながる一歩としてこの決起に賛同して集まった兵士達だった。だが、目の前の実戦。しかも予想を超える敵の威力の前に言葉もなくただ画面を見つめるだけだった。
 法術師の捕獲と言う最上の状況はすでに頓挫していた。その力を利用して一気に外敵を排除して栄光を取り戻す夢は絶たれた。出来ることは一つ、敵艦『高雄』の撃沈と言う状況を作り出しこの演習場の外で見物している他国の艦隊に力を見せ付ける以外に選択肢はない。
「艦長!主砲発射体制は?」 
「十分な観測データが取れていません!それに現在主砲射線軸上に友軍機が三機交戦中です」
 おびえた顔の艦長。先日は近藤を前に彼等をこんな辺境に押し込めた宰相西園寺基義を罵倒していた豪快な彼の面影は無い。近藤は深呼吸をすると彼の肩を優しく叩いた。
「彼らの命を無駄にしないためにも必要な処置だ。直ちに主砲発射体制に入れ!」 
「……判りました。主砲発射体制!」 
 管制員達が復唱を始める。
『高雄さえ沈めれば、必ず異星艦隊は動く!高雄さえ!』 
 近藤は思わず親指の爪を噛む昔の癖が出ている自分に気づき、当惑した。
「主砲エネルギー充填完了!目標座標軸設定よろし!」 
「主砲発射!」 
 艦長が声を絞り出した。同志に犠牲を出すことを覚悟しての言葉が悲痛にブリッジに響く。沈黙がブリッジを支配した次の瞬間。
 すべてのモニターが消えた。
作品名:遼州戦記 保安隊日乗 作家名:橋本 直