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遼州戦記 保安隊日乗

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「良いんですか?隊長。神前君は未だ法術系システム起動までのエネルギー調整が出来ないみたいですが……」 
 ヨハンが心配そうにタバコを燻らせている嵯峨を見つめる。
「なあに。俺は自分の勘には自信があってね。それに今回のミッションはあの二人がついててくれれば誠も死ぬことはないだろ」 
 そう言うと肺の中にたまっていた煙を大きく噴出した。


 今日から僕は 19


「おい!アイシャ。明華とリアナの姐さんはいるんだろうな?」 
 シミュレーションルームの入り口の自販機に寄りかかりながら、ジュースを飲んで一息ついているアイシャに要は甲高い声で噛み付いた。
「あの二人は高レベルなバトルしてるから暇になっちゃってさ……って、それよりちょっと顔貸しなさいよ!」 
 アイシャは要の襟首をつかんむ。突然の反撃に何も出来ない要を連れてアイシャは自販機の陰に消えた。
「何すんだよ!それよりパーラはどうしたんだ?」 
「私がどうかしたんですか?」 
 自動ドアが開いて、パイロットスーツ姿のパーラが出てきた。いつものことながらどこか警戒するような視線を誠に向けてくるパーラ。
『ゲルパルトの人造人間の胸って全てペッタンコじゃないんだな……』 
 不謹慎と分かっていてもカウラの大平原を思い出してパーラの胸と見比べながら誠はそんなことを考えていた。
「神前少尉!」 
 そのような所にカウラの声が響き、誠は直立不動の姿勢を取った。相当滑稽に見えたのかパーラや自販機の裏から出てきた要とアイシャが思わず噴出す。
「別に、そんな、何も考えていないですよ!」 
「胸見てたでしょ。カウラちゃんの……」 
「そうだよなあ。こいつ盆地胸だもんな!まあそこが菰田あたりが崇拝する対象なんだろうけどさ。いやあアタシは羨ましいねえ。アタシくらいあると邪魔でさ。もうめんどくさくってしょうがねえや。それより中入んぞ!神前!ついて来いや」 
 要は文字通り胸を張ってシミュレーションルームに入った。中にあるモニターに明華とリアナの戦いの模様が映し出されている。
 明華の四式がその得意とするロングレンジを保ちつつ優勢に模擬戦を進めていた。
「やっぱ場数は明華の姐御の方が踏んでるからな。戦いのコツって奴をどれだけ知ってるかの差か」 
 要は一目で現状を理解した。
「しかし、うちはずいぶん豪華な面子なんですよね。あの二人だって東和の教導隊ぐらいならすぐ勤まる腕前ですよ」 
 画面を見ながらパーラがそう言った。
「叔父貴の奴のことだ。あっちこっちで恫喝でもしたんじゃねえのか?まあアタシはアタシの居た特務隊が解散しちまったから仕方なく来たんだけどよ」 
「それで運命の男の子をゲットしようと現在奮闘中と!」 
 合いの手を入れたアイシャ。すぐに要の殺気を帯びた視線が彼女を襲う。
「アイシャ!表に出ろ!すぐさま額でヤニ吸う方法教えてやるからよ!」 
「ああ!怖いわ!神前先生!助けて!」 
 要とアイシャがじゃれあっているのを苦虫を噛み潰すような表情でカウラが見つめていた。
 画面上ではまだ戦闘が続いていた。両者距離を保っての撃ちあい。一瞬手元が狂ったのか、直線的な動きをとった明華の機体を捕らえたロングレンジライフルの一撃が、四式の腰部に直撃する。
「自分が有利な態勢になっても油断しないことだ。それでは続けて我々も出るぞ」 
 カウラはそう言うと一直線にシミュレーターの方に向かっていく。その先のシミュレーターの一つのハッチが開き、明華が顔をのぞかせた。
「油断したー!なんだ、あんた等も来てたの。丁度いいわ、丁度、そこの二人が役不足で困っていた所だから。西園寺や誠もやるんでしょ?付き合うわよ」 
 赤いヘルメットの明華はすっかりやる気のようだった。
「要ちゃんも来てくれたのね!明華ちゃん、それじゃあ第二小隊対私達でやりましょうか!」
 いつものひまわりのような明るい笑顔でリアナが声をかけてきた。要はいつものようにそのままシミュレーターの一つに飛び乗った。カウラはリアナの言葉に弾かれるようにしてアイシャとパーラがシミュレーターに乗り込むのを確認しながらゆっくりと手前のシミュレーターに乗り込む。誠も成り行きにあきらめながらその隣のシミュレーターに乗り込んだ。
 誠は早速コンソールとモニターを見た。
『法術管制システム』 
 操縦桿の根元の実に目立たない所にそれらしいスイッチを見つけてそれを操作した。
 画面が一瞬消え、次の瞬間に右端にサーベルの状態を示す画面と、よく分からない星マークの状態を示す画面が映った。
「これかな?」 
「おい!新入り!とぼけたこと言ってねえでさっさと始めんぞ!カウラ!起動とチェック終わったか?」 
 キンキンとした甲高い要の声がシミュレーター内部に響く。 
「もう終わった。とりあえず……」 
「新米隊長さんの御託なんざ聞きたくねえよ!誠!テメエは突っ込んでアチラさんの誰かと刺し違えろ。アタシとカウラで残りを叩く!」 
「西園寺!それは作戦とは……」 
「いいんだよ!どうせシミュレーターだ!こう言うのは落とされて学ぶことが多いんだよ!誠!多少は05式のお勉強が出来たろうから、その成果とやら見届けてやんよ!」
 明らかに無茶な要の叫び。誠は何とか反論しようと口をパクパクするが、肝心の言葉が思いつかない。 
「確かに一理あるな。神前少尉!とりあえず貴様が前衛で囮になれ。私と要で釣られてくるアイシャとパーラを叩く!」 
「そんなベルガー大尉まで……」 
 上司二人はもう完全に自分が落とされることを前提に話を進めている。誠は要にはそう言われることは予想していたが、カウラにまでそんなことを言われるとは自分の評価がどの程度か良くわかったと思いながらとりあえず先頭に立って状況開始を待った。 
「カウラ!そっちの作戦はできた?」 
 冷静な明華は淡々とそうたずねてくる。 
「準備万端ですよ!姐さん!たまには勝たせてもらいますよ!」 
「吹くじゃないの要ちゃん」 
 要が切れた。『ちゃん』付けで呼ばれた途端、モニターの要の額に血管が浮いたような気がした。
「第二小隊、状況開始!」 
 カウラのその言葉で突入をしようとした誠の横を要の機体がすり抜けていく。 
「西園寺!」 
「西園寺中尉!」 
 叫ぶ言葉は届かない。西園寺の機体は明華とリアナの長距離砲の弾幕の中に消えた。さっきの打ち合わせはなんだったのか。そんなことを思いながら加速をかけようとする誠。
「三番機!西園寺のことは忘れろ。アイシャとパーラが突っ込んでくるぞ!」 
 カウラは素手に気持ちを切り替えていた。
「しかし西園寺さんは……」 
「自分で言ってたろ?あいつも落とされて少しは勉強した方がいいんだ。早速来たぞ!第一小隊4番機、パーラだ。簡単には落ちてくれるなよ!少尉!」 
 逆上した要の突撃に不安を感じながら、誠は確認したパーラの機体に正面装甲を向けて正対する。
「回り込まれないようにして距離をつめる!」 
 誠はパルススラスターに火を入れた。対Gコックピットのなせる業である急加速をして一気に距離をつめた。
「ここで上昇!」 
作品名:遼州戦記 保安隊日乗 作家名:橋本 直