小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

遼州戦記 保安隊日乗

INDEX|48ページ/89ページ|

次のページ前のページ
 

「馬鹿か?テメエは?ウチの正式名称が遼州星系政治共同体同盟最高会議司法機関実働部隊機動第一課ってこと分かってるだろ?要するに近藤の旦那はその網にかかった国家転覆を図る犯罪者と言うわけだ。そしてそれに対応可能なのはうちしかない。犯罪者の逮捕および関係者の摘発はうちの仕事だ」 
 要は淡々とそう言うとカウラ、アイシャ、そして誠を置いて歩き始めた。
「何処行く気だ?」 
 ゆっくりと先に歩き出した要にカウラが声をかける。
「とりあえず部屋の荷物片付けるわ」 
 要はそのまま歩いていく。まるで何事も無かったかのように。
「カウラちゃんと誠ちゃんはどうする気?」 
「とりあえず私は荷物の整理が終わっている。とりあえずハンガーに行くつもりだ。今回の作戦はそれなりに覚悟してかかる必要がありそうだからな」 
 カウラはそういい残すとハンガーに向けて歩き出した。
「じゃあ誠ちゃんは?」 
「自分はとりあえず荷物の整理をします」 
「手伝うわよ。それに何処が居住区か分からないでしょ?」 
 アイシャの顔にいたずらっ子のような笑みが浮かんだ。誠は断っても無駄だろうことを悟って歩き始めたアイシャに付き従った。汎用戦闘艦は幹部候補研修で何度か乗ったことがあるが、『高雄』の艦内は明らかにそれまで乗った船とは違っていた。嵯峨があれほど得意げだったのもこの艦の居住区画を50メートル歩けば理解できることだった。
 第一、通路が非常に広く明るい。対消滅式エンジンの膨大な出力があるからといって、明らかにそれは実用以上の明るさに感じた。
 それに食堂の隣が道場、そしてその隣にフリースペースとも言える卓球台と自動麻雀卓を置いた娯楽室のようなものまである。
「やっぱり変でしょ?この船の内装。全部隊長が自腹で改修資金出した施設だから。おかげで定員が1200名から360名に減っちゃったけど」 
「それってまずいんじゃないですか?」
 技術下士官達が出航までの待ち時間を潰しているのかドアを開けたままの部屋が多い下士官用と思われる区画。さすがにどの部屋は狭苦しく感じる。ちらちら覗き込んでいる誠に配慮したように歩みを緩めたアイシャは言葉を続けた。 
「うちの持ち味は少数精鋭なのよ。実際、艦内のシステム管理要員は吉田少佐だけで十分だし、マリアのお姐さんの警備部が白兵戦闘時には威力を発揮するから別にそんなに人間は要らないの。じゃあこのエレベーターで……」 
 アイシャに続いて誠はエレベーターに乗り込む。
「しかし長期待機任務の時はどうするんですか?吉田少佐一人じゃあ」 
「部隊編成自体、長期間の戦闘を予測してないのよ。第一、二個小隊しか抱えていない保安隊に大規模戦闘時に何かできるわけ無いでしょ?それに保安隊は軍隊じゃなくあくまで司法機関の機動部隊という名目なんだから、そんなことまで考える必要なんてないわね。着いたわよ」
 アイシャは開いた扉からパイロット用の個室のある区画に向かって歩き出した。誠は居住区の一番奥の室に通された。個室である、そして広い。正直、彼の下士官用寮の部屋より明らかに広い。そこには誠の着替えなどの荷物を入れたバッグがベッドの上に乗せられていた。
「ずいぶん少ないわね。せっかくいろいろとグッズ見せてもらおうと思ったのに……。これは……ふーん。画材なんだ」 
 アイシャはそう言うと警備隊員が運んでおいてくれたダンボールを一つを覗き込んだ。誠はベッドの上の着替えなどをバッグから取り出しロッカーに詰め込んだ。それほど物はない。手間がかかるわけでもない。
 画材などは後で片付けよう。そうすると特にすることも無かった。
「誠ちゃん!居るー?」 
 部屋のドアの所にリアナが立っていた。隣にはきつい目つきの明華が居る。誠は思わず二人の佐官に敬礼をする。
「別にそんなに硬くなんなくてもいいわよ。それよりちょっとシミュレーションルームまで来てもらえるかしら?アイシャちゃんもお願いね!」 
「はい?」 
 どこか間抜けなリアナの言葉に誠は脱力感を感じながら作業を中断して部屋を出た。
「お姉さんどうしたんですか?アタシも連れて行くなんて」 
 画材のダンボールを弄っていたアイシャが不思議そうにリアナに語りかける。
「アイシャちゃんも一応パイロット経験者だしね。聞いたでしょ?吉田君から今回の作戦の目的」 
「一応、聞きましたけど……。予備機を出すんですか?」 
 アイシャが戸惑いながら尋ねる。だと言うのにリアナの言葉は今にもスキップを始めるんじゃないかと言うくらい明るい。
「予備機はあくまで予備よ。一応、積んではあるけど可動状態に持ち込むのには少し時間がかかるわね。しかもそんな予算も無いし」 
 淡々と明華が答える。隊長と並ぶ大佐と言う肩書きだけあり、その一言に誠もアイシャも答える言葉が無かった。
「じゃあ行きましょう」 
 リアナを先頭に誠は来た道を引き返すことになった。再びエレベーターでブリッジ下の階まで行き、食堂の前を通過して無人のトレーニングルームの隣の部屋に連れ込まれる。
 シミュレーションルーム。中に入ると仕事を終えた整備員達が遊びでアサルト・モジュールのシミュレーションシステムを使っているところだった。
「ちょっと何してるの!島田曹長!シミュレーターは玩具じゃないんだから!とっとと隣に行って食堂でお茶でもすすってなさい!それともトレーニングルームで基礎体力訓練でもする?」 
 明華がそう大声を張り上げると、島田、キムの両曹長をはじめとする整備員達は、一度直立不動の姿勢で敬礼をすると、蜘蛛の子を散らすように全力疾走でエレベーターの方へ消えた。
「ああ!我が部下ながらウチの隊には規律と言うものが無いのかしら?まあ隊長があの駄目人間一号だからしょうがないけど」 
「明華ちゃん。それは言い過ぎなんじゃ……」 
 高飛車に隊長を切り捨てる明華にリアナがフォローを入れる。
「神前少尉。とりあえず東和軍のパイロット候補がどの程度の腕か確かめさせてもらうわよ」
 そう言うと明華は6台あるシミュレーターの一つに乗り込んだ。
「ごめんね、誠ちゃん。明華ちゃんは言い出したら聞かないから。一応、私が僚機でやってあげるから。アイシャちゃんも、お手柔らかにね!」 
 リアナもシミュレーターに乗り込む。
「あのー、僕は……」 
「いいんじゃないの?とりあえず気楽に行きましょ!」 
 アイシャがウィンクしながらシミュレーターに乗り込む。誠も置いてけぼりを食わないようにシミュレーターに乗り込んだ。
 シミュレーターの中。ハッチを閉めると自動的にマシンは起動し、コンソールが光り始める。
「05式と配置は同じか。場所は宇宙空間。自機の状況は……!」 
 誠は残弾を示すゲージを見つめて固まった。
「どうしたの?なにか不思議なことでもあったの?」 
 通信ウィンドウが開き、リアナが声をかけてくる。
「あのー、残弾がゼロなんですけど、これって間違いですよね?」 
「ああそれね!要とカウラが『あいつには飛び道具は使わせないでくれ!』って言うから神前少尉の機体はレールガンやミサイルの装備は無いのよ」 
 リアナの言葉に白くなる誠の視界。
「手ぶらで何しろって言うんですか!」 
作品名:遼州戦記 保安隊日乗 作家名:橋本 直