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遼州戦記 保安隊日乗

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 マリアも若干だが嵯峨の腹のうちは読めているのかと思いながら誠は自分の荷物を手に取るとそのまま資材の搬入を行っている通路目指して歩く彼女について歩いた。
「ああ、噂をすれば影だ。あそこに居るの隊長じゃないのか?」 
 マリアが指差す所、武器の類が入っているような木箱の山の手前でタバコを燻らせながらこちらに向かって手を振っている嵯峨の姿があった。誠は招かれるままに、マリアと一緒に歩いていった。
「よう!良いところに来たじゃないか」
 嵯峨は木箱を叩きながらそう言った。
 木箱には『沖取り新鮭』と大書きされている。その後ろには野菜のダンボールが山積みされていた。
「何しているんですか?隊長」 
 マリアが素早くそう返した。その表情は彼女が半分以上嵯峨が運んできた荷物の中身を呆れていると言う事実を示しているような渋い笑顔だった。
「なあに、遼南土産が届いてね。これでちゃんちゃん焼きでもやろうと思ってさ。明華にはちゃんとバーベキュー用具一式そろえるように頼んであるんだけど、どうせ今は搬入物資の点検に追われてそれどころじゃないと思うから……」 
 そう言いながら嵯峨は再びマリアのところに集まってきた後続の警備部員達に目を向ける。
「それで警備部でこれを運べと?」 
 マリアは明らかに呆れ返ったような表情を浮かべる。
「そんな顔するなよ。せっかくの美人が台無しだぜ?神前の、とりあえずそれ一つ持ってこい」
 嵯峨は鮭の入った木箱を叩くと艦の連絡橋の方に歩き始めた。慌てて誠は木箱を手にするが、持っていた荷物が地面に置き去りにされるのを見つめる。
「安心しろ。うちで運ぶから」 
 そう言ってマリアは誠を送り出した。木箱を持って誠は嵯峨の後ろにたどり着く。
「どうだい、うちの自慢の運用艦は」 
 嵯峨の得意げな言葉に誘われるように巨大な壁のような『高雄』を見上げる。
「大きいですね」 
 率直な感想を述べた誠だが、振り返った嵯峨の表情は明らかに期待はずれの答えを誠が出したと言うような顔をしていた。
「でかいって言うなら胡州の富嶽級とかにはまるで勝てないぞ……ってまあこいつの凄さは外から見てわかるもんじゃないからな」 
 そうして連絡橋にたどり着いた嵯峨は相変わらずのゆったりした足取りでミサイルの模擬弾頭を積んだトレーラーの後ろを歩いていく。
 連絡橋を渡り、艦の中に入った誠。東和軍の所有の軍艦なら何度か乗せられた経験もあるので特に気になるところの無い倉庫の中を嵯峨に導かれるようにして歩く。
「ここまでは普通」 
 嵯峨はそう言うとこの区画の端に設けられたエレベータの中に乗り込んで、誠が入ったのを確認して上昇のボタンを押した。ドアが閉まり沈黙が訪れる。誠は相変わらず読めない表情の嵯峨を見つめていた。
 そしてドアが開く。そこで初めて誠は嵯峨の言葉の意味を知った。生活区画の通路は誠が以前宇宙での各種戦闘技術の訓練のために乗った輸送艦の数倍の幅がある。
「巡洋艦って凄いんですね……」 
 誠の声に嵯峨は笑いながら振り向く。
「これは特別。うちに求められるのは長期戦闘に備えることじゃない。となれば交代要員や余計な物資の積載所を考える必要が無いわけだ。そうなれば生活区画に余裕が出来るだろ?だからこんなに広い」 
 そう言うと嵯峨周りを見回している誠を置いてエレベータに戻った。
「ああ、俺は用があるから。そこにお前を待っている人がいるみたいだからからな」 
 嵯峨はそう言うとそのままエレベータを閉める。誠が当惑して見回した先には腕組みをした要が立っていた。
「新入り遅えんだよ!」 
 誠に要が吐き捨てるようにそう言った。手にした鮭の木箱を見るとこめかみに指を置いて呆れたと言うようなポーズをとる。
「それか?じゃあ食堂に運んじまえ」
「食堂?」
 そう聞き返した誠の後ろに回ると要は力任せに押し始める。
「いいです!場所を教えてくれれば……」 
「このまままっすぐ!そのまま進め!」 
 要に押されて走るような勢いで誠が進む。そこには保安隊の制服を着ている割には見慣れない顔の面々が米の袋や油の箱を抱えて入っていく部屋があった。
「わかりました!わかりましたってば!」
 誠はそのまま要に押されて食堂に連れ込まれる。そしてテーブルの上の運んできた鮭の入った木箱を置くと、不安に思いながら振り向いた。要は別に機嫌を損ねているわけではなく珍しそうに誠が運んできた木箱に目をやった。
「また叔父貴がなんか持ち込んだんだろ?まったくあの不良中年が!今度は何をやろうって言うんだ?」 
「沖取り新鮭でちゃんちゃん焼きをやるとか……」 
 誠がそう口走ったのを見るや、要は今度は明らかに不機嫌な表情を見せる。
「あの馬鹿隊長が、今度はピクニックにでも出かけるつもりか?」 
「あの人にとってはそのくらいのものなのだろう。箱持とうか?」 
 要のうしろからカウラが顔をだす。そして誠が運んできた木箱を持ち上げるとそのまま厨房に向かい、炊事班の下士官に置く場所の指示を仰いでいた。
「どうせ今回の演習もなんかたくらんでるんだろうな。まあ退屈しないからいいけどよ」 
 カウラの態度でかまう相手が減ったのが気に入らないのか、要は淡々とそう言うと食堂の椅子に座ってタバコをつけようとした。
「ここ禁煙みたいですよ?」 
「うるせえな馬鹿野郎!分かっとるわ!そんなこと。ただくわえてるだけだよ!」 
 要は誠の言葉についいらだたしげにそう口走った。調理場から戻ってきたカウラがその様子を呆れながら見つめている。
「んだ?小隊長さんよう。まあただの演習であることを祈るねえ。前の隊長のシンの旦那より有能かどうか、安全な形でちゃんと白黒つくだろうからな」
 挑発するような様子で要がカウラを見上げる。カウラは腕組みしながらその言葉に微笑みで応えた。 
「それなら実戦の方が分かるんじゃないのか?」
 ここで要らしくタレ目でカウラを見上げながら言葉を続ける。 
「何言ってんだか!新米隊長に使えない新入りをつれて敵さんの所になんぞアタシは怖くてとてもとても……」 
 要とカウラお互いに自分が上だと言うように微笑みながらにらみ合う。
「あー!またあの二人喧嘩してるー!」 
「馬鹿!せっかくここからがいいところなのに叫ぶんじゃない!」 
 誠が振り返るとシャムと吉田が目を輝かせてこちらを見つめていた。要もカウラも野次馬の奇声に飲まれたようにお互い威嚇するように一瞥した後、目を逸らした。
「神前少尉!とりあえず部屋を教えておこう」 
 カウラはふくれっつらの要を置いて、誠をつれて食堂を出た。
「喧嘩はいけないんだよー!」 
 暇をもてあましているのか誠達の後ろを付いてくるシャムと吉田。
「馬鹿、喧嘩するほど仲がいいって言うじゃないか」 
「ああそうだね!じゃあカウラは要のこと好きなんだ!」 
 シャムの気軽に言ったその言葉に、カウラはキッとしてシャムをにらみ付ける。その剣幕に恐れをなして、シャムが悲しそうな顔を作った。
「アタシの方がお姉さんなんだぞ……年上の人をいじめちゃだめなんだぞ……」 
 シャムはそう言いながら吉田の後ろに隠れる。
作品名:遼州戦記 保安隊日乗 作家名:橋本 直