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遼州戦記 保安隊日乗

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 小声で恥ずかしそうに下を向くカウラ。
「もう!ピュアなんだから!」 
 そう言ってけたたましい声で笑うとアイシャは誠の飲みかけのジョッキを取り上げて煽った。 
「じゃああれを何とかしろ!アイシャ!」 
 要が指差した所にサラと島田がこちらの喧騒をよそに、仲良く烏賊玉を突いていた。一斉に誠達の視線が集中する。注目を浴びて戸惑う島田。そしてそれを無視して烏賊玉を食べているサラ。
「島田!テメエ!」 
「男の仁義を知らんのか!」 
 菰田とキムがそう叫ぶ。ようやく全員が何故自分を見ているかわかった島田はおずおずと手を引くが、サラがいかにもおいしそうに島田が焼いた烏賊玉を食べていた。
「サラ!あんたって人は!」 
 アイシャが立ち上がろうとするところを、明石が重い腰を上げて止めた。
「なあクラウゼの。ここは押さえてくれや。せっかく楽しくやっとるんじゃ。野暮は関心せんぞ。まあ一杯やれや」 
 明石はそう言ってアイシャの開いたグラスに日本酒を注いだ。アイシャはもうかなり出来上がっているらしく、気にせずそれを一息で飲むとひっくり返った。
「タコ中。潰れちゃったぜ」 
 要はもうすでに寝息を立てているアイシャを指してそう言った。
「奴も飲めない方だからな。戦うためだけに作られたから、こんな席には向いちゃいないんやろな。カウラ後で送って行ってやれや」 
「分かりました。パーラと同じマンションだったな?」 
 カウラはそう言うと烏龍茶を飲んだ。
「そうね。とりあえず放り込んでおけばなんとかするでしょ」 
 パーラはそう言うと一口ビールを飲んだ。
「確かにあの部屋は凄いからな、誰かさんの部屋みたいに」
 カウラが楽しげに語る。そんな彼女の言葉に誠は寝ているアイシャを見つめた。
「僕の部屋ってそんな凄かったですか?」 
 その誠の言葉にカウラとパーラが凍りついた。
「まあな、オメエの部屋……アニメとゲーム関係のものだらけだったじゃねえか」 
 要は呆れながらそう言うと、胸のポケットからタバコを取り出した。
「隊長がいない時は禁煙だよ!ここは!」 
 吉田に豚玉を焼かせながらじっとこの騒ぎを見ていたシャムがそう突っ込みを入れた。
「叔父貴がいるときだけ喫煙可って……くわえてるだけだっての!ったくお子ちゃまはこれだから……」 
 目を細めてタバコをしまう要。
「お子ちゃまじゃないもん!中尉さんだい!」 
 シャムは頬を膨らまして抗議する。誠は展開についていけず黙ってたこ焼きを突いていた。
「しかし、良く食べますねシャムさん」 
 誠はもう二玉、豚玉を食べ終わり、三つ目が焼けるまでのつなぎで、たこ焼きを食べているシャムを見て、心の底からの声を発した。
「ただでさえチビなのに、これ以上食ったら太るぞ?」 
 要はグラスを傾けながらそう言ってみせる。
「大丈夫だよ!シャムは元気に動いてるから!」 
 シャムは気にする様子も無く、たこ焼きを頬張った。
「え?育ってないって?」 
 いったん潰れたと見えたアイシャがのそりと起き上がった。
「あ。復活した」
 サラがそう言うと烏賊玉を口に運ぶ。 
「余計なことするんじゃない」 
 要とカウラは復活したアイシャを見て思わず口を滑らす。
「いいもんね、どうせアタシなんか……!」 
 脈絡も無くアイシャはシャムのところまで匍匐前進していく。
「何する気だ?」 
 要は面白そうにその有様を見ている。
「ミニマム!」 
 そう叫ぶとアイシャは今度はシャムに抱きついた。
「邪魔だよアイシャちゃん!食べられないよ!」 
「ご飯はもういいから!一緒に飲もうよ!ねえ!」 
 アイシャはシャムに抱きつきながら吉田のグラスをかっぱらうと、一気に飲み干してまた倒れこんだ。
「明石中佐。妙に落ち着いてますけど、もしかして……」 
 誠は恐る恐るにこやかに笑いながら酒をすすっている明石にそれとなく聞いてみた。
「まあいつもワレは潰れとったから知らんじゃろが、いつもウチの飲み会なんてこんなもんや。どや?驚いたか?」 
 我関せずといった調子で、明石は杯を進める。ふと吉田の方を見た誠だが、こちらもニヤニヤしながらシャムとアイシャを横目で見て酒を飲んでいるだけで、手を出すつもりなど無いようだった。
 しかし、誠にとってそれ以上に引っかかるのは菰田の舐めるような視線だった。明らかに敵意をむき出しにして、こちらのほうを見ている。先任下士官である菰田ににらまれて、誠はおずおずとビールをすするよりほかにすることも無かった。
「菰田先輩……?」 
 誠は鬼の目に変わった菰田に向けてそう言った。
「何でお前ばっかり!何でだ!この受けキャラが!」
 菰田の叫びが座敷に響く。誠の視線の中でパーラはできるだけ離れようと壁に張り付いている。 
「受けキャラと聞いたら黙ってませんよ!」 
 菰田のその言葉に反応して泥酔状態のアイシャが起き上がった。完全に出来上がった視線で誠に向き直るアイシャに誠は冷や汗が流れるのを感じていた。
「めんどくさいから、オメエは寝てろ!」 
 要が誠をかばうように立つとアイシャは懇願するような瞳をして両手を合わせて要に向き直った。
「要ちゃん!人には戦場と言うものがあるのよ!」 
 そのアルコールで赤く染め上げられた頬を見て要はアイシャを捕まえる。
「わけわかんねえよ!」 
 そう叫ぶ要の手を振りほどいてアイシャは起き上がった。
「ヒンヌー教徒が立ち上がった今!カウラちゃんフラグは消えたも同然!今こそ私とのフラグが!」 
 立ち上がって演説を始めるアイシャ。誠は事態の収拾を期待して明石を見る。そこではできるだけ話の輪から遠ざかろうと下を向いてたこ焼きを分解している明石の姿があった。
「だから分かるように言えよ!」 
 もう一度要は叫びながらアイシャを組み伏せようとする。その動きを読んでかわしたアイシャはそのまま誠に熱い視線を送る。誠はアイシャの濡れた視線に戸惑いながらじりじりと後ろに後退した。
「フラグ?何だそれは?」
 誠をかばうように間に入ってきたカウラが誠に尋ねる。 
「何なんでしょうねえ……」
 そう言って誠はアイシャの顔を見た。彼女は舌なめずりをしながらじりじりと誠に近づいてくる。そんな誠達のやり取りを菰田は手を震わせながらそれに聞き入っている。
「やれー!もっと修羅場になれー!」 
 気の無いように吉田がそう叫んだ。島田とサラは騒動を無視して二人だけの世界に旅立っている。キムを見れば野菜玉を焼き上げることに集中している振りをして、係わり合いになることを拒絶しているようにも誠からは見えた。
 頼れるものは自分ひとり。酒を飲むのを躊躇していた誠は隣になみなみと注がれていた要の酒を奪い取ると一気に飲み干した。
「おい!何しやがる!」 
 要が慌てて誠に声をかけた。
「やられた!間接キッスフラグとは!」
 その場に崩れるようにして頭に手をやるアイシャ。 
「だからわけわかんねえよ!」 
 要の突っ込みをアイシャは軽くかわす。誠は40度のアルコールにしたたか頭の中を回転させながらそれを聞いていた。
「分かりました!」 
 誠はそう言っていた。
「大丈夫か?」 
作品名:遼州戦記 保安隊日乗 作家名:橋本 直