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遼州戦記 保安隊日乗

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「あのー、シャム先輩?その黄色い帽子とランドセルは何のつもりですか?」 
 そこには黄色い帽子に赤いランドセル姿のシャムがいた。さらに着ているのは熊の絵の描かれた白いタンクトップにデニム地のミニスカートである。その格好が身長138cmと言う小柄で童顔なシャムにはあまりにもはまりすぎていた。
 誠の質問に首をかしげているシャムがようやく誠の質問の答えを見つけたというように微笑んだ。
 その答えは予想できたが、誠はそれが外れてくれるのを心から願っていた。
「小学生!」 
 最悪の答えが返ってきた。誠は頭を抱える。確かにシャムの言うとおりどこから見ても小学生だった。
 階段を上がってきて誠と目のあった明石が他人の振りを装うように口笛を吹いている。
「明石中佐……」 
 誠は呆れるというよりあきらめていた。
「ワシに聞くな!こいつはこういう奴じゃ!言いたいことはそんだけじゃ。それよりいい話があんねんけど、島田とエンゲルバーグには連絡してあるはずだが……」
 シャムを視界に入れないように注意しながら明石が巨体を揺らして階段を上がってくる。 
「エンゲルバーグって人いましたか?」 
 聞きなれない響きに誠は首をかしげた。当然できるだけシャムを見ないですむように視線を落とさずに明石のサングラスを見つめることは忘れなかった。
「ヨハンのデブのことだよ。さっき厨房で大量のソーセージ抱えて歩いてたぞ?」 
 要が吐き捨てるようにそういうと、誠の部屋のほうに歩き始めた。
「何が始まるんですか?」 
 誠は空気が読めずに明石にそうたずねた。
「野球同好会が野球部に昇格したお祝いじゃ。幸い、ここの個人部屋は贅沢なくらい広いよってに」 
 そういうと手にした一升瓶を掲げる。
「わかってるじゃんタコ。じゃあ宴会の準備しに行こうぜ!」 
 ようやく自分の言いたかったことを言えて安心したように、要が誠の肩を叩いて誠に部屋に戻るように促した。
 三人はそのまま誠の部屋に向かった。
「置いてかないでよ!」
 なんちゃって小学生スタイルのシャムは彼らに無視されているのに気がついて三人を追いかけた。
 誠が自分の部屋の扉を開くといつの間にか吉田までが座っていた。
 彼はアイシャが開いている誠のスケッチブックをにやけながら覗き込んでいた。
『ビール到着しました!』 
 島田は瓶、サラは缶のケースを抱えて誠の部屋に転がり込む。さらにその後ろには野球部の一員である管理部の経理課長菰田曹長がコップを持って入ってきた。
「はーい!ビール行きたい人!」 
 サラの声に誠と吉田が素早く手を上げる。
 アイシャはようやく誠の描く美少女系の絵から目を離して手を上げた。それを眺めていたパーラも手を上げる。
 菰田は彼らにコップを配って回る。そして瓶の栓を開けている島田からビールを受け取ったサラは次々とビールを注いで回った。
「あの、いつも思うんですけど吉田少佐?何処から入ったんですか?」 
 誠が至極まっとうな質問をする。
 吉田はビールを一口で飲み干すとすぐ窓のほうを指す。閉められた窓の下にはロープが一本落ちている。
「吉田の……。ワレはまともに玄関から入るいう発想は無いんかいな?」
 菰田のコップに日本酒を注ぎながら明石のどら声が響く。 
「タコ。人生は楽しまなきゃねえ」 
 そう言いながら吉田は島田にカラのコップを差し出す。
 仕方ないというように島田がビールを注ぐ。
 入り口の近くに座って日本酒を飲んでいる菰田の後ろに現れたシャムが、サラから耳うちをされるとそのまま部屋を出て消えていくの誠にも見えた。
 そんな八畳の部屋に集まった人の熱気に気付いた誠が、エアコンのリモコンを取りに本棚に背を持たれかけて日本酒を飲んでいる要の背後の棚に手を伸ばした。
 視線が誠と合った要。彼女は一口日本酒を口に含んで立ち上がった。
「機械人形が良いこと言った!神前!とりあえず飲め!イッキだ!」 
 要が吉田が自分用に確保してあるビールの缶を横取りすると誠の頬に突きつけてそう叫んだ。
 全員が嫌そうな顔を要に向けたとき、シャムが袋菓子を一杯に手に持って現れた。
 アイシャが素早く手を伸ばす。のり塩のポテトチップス。サラはそれを見てうらやましそうな表情を浮かべた後、残っていたコンソメ味のポテトチップスを確保した。
 島田が気を利かせてポップコーンとうす塩味のポテトチップスの袋を開いて誰でも食べられるように拡げた。
「気がきくじゃねえか」 
 そう言うと要はポップコーンを一握りつかんで口に放り込んだ。
「アイシャ、さっき要ちゃんねえ……」 
 シャムはそのまま手招きするアイシャの隣に座るとアイシャの耳に口を寄せた。
「シャム、埋めるぞ貴様!」 
 要の剣幕ににんまりと笑顔を浮かべるアイシャ。
「要ちゃんそんなに焦ってどうしたの?」
 アイシャはそう言うとビールを飲み干して島田にコップを差し出す。
「神前、お前も少しは手伝えよ」
 そんな島田の言葉に立ち上がろうとした誠だが、要が無理やり引き倒したのでアイシャの膝元に転がった。 
「誠君も知ってるんだよね!」
 倒れたまま声をかけられた誠。彼の左手を握り締める要の手に力が入っていくのを感じて誠は必死に首を振った。
「二人とも変なの」
 そう言うとアイシャはビールを飲み干した。
「はい、ビール」 
 島田がパーラに瓶を手渡し、それは倒れている誠の目の前に置かれた。誠はようやく要が左手を離したので起き上がるとそのままビールをアイシャの差し出すグラスに注いだ。
「島田。飲めない人間がおるんじゃ。ジュースか何か買ってくるくらいの気い使っても良かったんと違うか……」
 明石がそう言うと窓の下に座り込んでいる吉田が口を挟んだ。 
「麦茶もあるしいいんじゃねえの?そういう自分だって持ってきたのは日本酒じゃねえか」 
 吉田と明石がにらみ合う。
 再びドアが開くといつの間にか場を抜けていたサラが現れた。
「お待たせしました!ちゃんとベルガー大尉用に烏龍茶もありますよ!」
 サラがペットボトルの烏龍茶を持って現れてカウラの前にあるコップに烏龍茶を注いだ。
「おい!シャムが食いすぎてつまみが無いぞ!アイシャ、それを供出しろ!」 
 すっかりビールのアルコールで機嫌の直った要が、そういってアイシャを睨み付ける。
「なによ!これは私が食べるのよ」 
 そう言って無理やりポテトチップスを口に突っ込むアイシャ。
「二人とも喧嘩しないでよ!もうすぐエンゲルバーグが……」 
 割って入ろうとするサラの一声に空いたままの扉から声が響いた。
「ヨハンです!ヨハン・シュペルターです!」 
 恰幅のよさでは部隊随一のヨハンが、ボール一杯のソーセージを持って入り口に仁王立ちしていた。
 彼はそのまま食べつくされた部屋の中央のつまみ類をどかすと、湯気を上げている何種類もあるソーセージの盛り合わせを置いた。
 シャムが素早く黒い斑点が透けて見える大きなソーセージをキープする。カウラもつまみに手を出さなかったから小腹がすいているようで、赤い辛そうなのを手に取ると口に入れた。
「なんか狭くないか……若干二名のせいで」 
 要はそう言って、明石とヨハンを見回した。
作品名:遼州戦記 保安隊日乗 作家名:橋本 直