= clock lock works =
「・・・ねぇ。実は今日、話があったんだ。」
「・・・?」
改まってクロックは呟いた。
壁越しだから顔は見えないけど、多分今の表情は悪戯のバレた子供のような感じだろう。
「なあに?」
「えっとね…。」
「僕は、もうここには来れないかもしれないんだ。」
…え?
時が止まったような気がした。
思わず壁に顔を向ける。しかし、クロックの顔は黄土色の壁に遮られて見えない。
「あ、大丈夫だよ!だって、」
焦って言葉を付け足す。
「鍵は開けなくても、顔が見えなくても、ここから貴方に届くでしょ?」
「・・・・っ!」
何だって。
クロックはそれきり黙っていた。
私が怒っていると怯えているのだろうか。
・・・当たり前だろう。
「どういうこと?」
声に出さないようにしたかったけど、ついつい低い声が出てしまう。
「……僕は、前に病気にかかってるっていったよね。」
「えぇ。幼いままだとか。」
記憶を辿り思い出す。
彼は身なりが成長しない病気にかかっていて、声が幼いのはそのせいだ。
「うん。それってかなり重病で、お医者さんからは…治らないかもって言われてるんだ。」
「……」
「幼いままだと、病気に対する対抗力もあまり強くならないらしいんだ。」
「…つまり?」
「…僕は、いつ死んでもおかしくないってことさ。」
「!!?」
死ぬ。
クロックが。
そんなこと、今まで思ってもいなかった。
「君との話はとっても楽しかったよ!」
「っ!待ってよ!今日死ぬとはかまわないでしょ!?」
早口で言うクロックに慌てて聞く。
「……僕は君に悲しんで欲しくないんだ。時間をかけてでもいいから、僕の事は思い出としててくれないかい。」
「……何よ…それ…」
どんなに言っても、彼は私の前から姿を消すらしい。
何も言わず黙り込む二人に、気まずい空気が流れる。
「……嫌。」
「………え?」
「嫌!そんな話は聞きたくないわ!私は…いつもの明るいクロックの話が聞きたいの!!」
「…。」
「空の話でも、家政婦の話でも、花の話、子供の話。何でもクロックと話すことは楽しかった!」
それが、こんないきなり終わるなんて。
唇をかみ締めながら吐き出す。
「……ごめんね…。」
「……っ!」
壁に精一杯近づくと心臓のような時計の音と、自らの心臓の音が聞こえる。
---彼の声は聞こえない。
「……どうして…?」
もう聞こえない声に誰に聞くかもなく聞き返す。
その時、時計の音が………止まった。
作品名:= clock lock works = 作家名:十六夜