= clock lock works =
別れ
いつもの12時。
「あ…。」
時計に気づいた私は顔を上げ壁に近づいた。
耳を壁に付けると、チク…チク…と心臓のような時計の秒針が聞こえる。
---今日も彼は話しかけてくれるだろうか。
心の隅で、少しだけ期待をしている自分が居ることに驚いた。
彼は私の知らない話をたくさん知っている。
この前の話は、雨の話だった。
一昨日は、家政婦さんの話。
特に返事もしない私に、何でも話してくれた。
その口調は、すごく…楽しそうでもあり、寂しそうな感じもあった。
「こんばんは、おはよう!」
いつものフレーズで、いつもの声色の声が部屋に響く。
「こんばんは。」
「えへへ、今日は遅くなったね。」
「そうね。…今日はどんな話?」
「今日は散歩していた近所のおじさんの話で…」
またいつも通りの会話は続く。
クロックはよく喋る。だから彼に
「貴方はどうして私に話しかけてくるの?」
と、一度跳ね返したことがあった。
彼は、
「君に笑って欲しいんだ。」
と、照れたような笑いを含んだ声で言った。
彼は悪口や陰口を言わない。
純粋で、黒だらけの世界を鮮やかに染め上げてくれた。
私は、クロックが好きだった。
作品名:= clock lock works = 作家名:十六夜