ドードー鳥のウィンク―ハローグッバイ―
「うん、わかってるけどあえて聞いてるの。まあ理由は一つしか考えられないしね」
日曜日、私は冴、沙織と一緒に沢森駅の前で集まった。
沢森駅周辺はいわゆる若者の聖地、ファッションストリートなのだ。今まで冴と沙織に服を買いに行こうと誘われていたけれど、服に対して興味のなかった前の私はその誘いを断っていた。
絶対からかわれるからできれば一人で行きたかったけれど、自分のファッションセンスが絶望的だということをタンスをみて嫌というほど理解したから、昨日二人に一緒に来てくれるようにお願いしたのだ。
「要するに、私たちがあんたの服選びを手伝えばいいわけでしょ、デート用の」
「デ、デートなんかじゃないよ!私はただ……」
「ただ?」
「うう……」
二人はさっきからずっとニマニマ笑っている。
猛烈に恥ずかしかったけど、背に腹は変えられない。
沢森駅の周辺は様々な店があって、まるで一つの巨大な迷路のようになっている。しかも店によって服の価格はピンキリ。
私一人で来ていたら、何がなんだかわからずに一日が終わってしまう。
「そんなこといいから!早くお店に行こう!」
「はーい。それじゃあいつも言ってる店に行こっか、冴ちゃん」
「そうだね、あそこ安いけどいい服そろってるし」
というわけで、私たちは沢森駅から二〇〇メートルくらい離れたところにある、冴と沙織の行きつけの店に行くことになった。
冴と沙織の行きつけの店、「アルジャーノン」は、木造建築のシックな雰囲気が漂っていた。今までは近くにあるデパートでセールになっているような服しか買ってなかったから、どこか場違いなところに来てしまったような気がしてそわそわした。店の中のマネキンたちが、Tシャツ短パンの私に向かってダサいと言っているような気がする。マネキンが着ている服は、どれもこれも可愛かった。いままで服なんて動きやすければいいとしか思ってなかったのに。
その中で、私は白いシャツの上にワンピースを着たマネキンに心が引かれた。シンプルでいて上品。首元には赤いリボンがアクセントで付けられている。これを着てみたい。そう思った。
財布にはお父さんがくれた一万円と、お年玉の残りの一万円、合計二万円がが入っている。たぶん、これだけあればおつりがくるだろう。そうたかをくくっていた。
作品名:ドードー鳥のウィンク―ハローグッバイ― 作家名:伊織千景