ドードー鳥のウィンク―ハローグッバイ―
「いや、そうじゃなくて。私と会う前から森下君は動物の絵を描いていたでしょ?」
あぁ、と納得した様子で森下君はこう話を切り出した。
「長くなるけど」
「僕は動物が好きなんだ。とても大きかったり、とても小さかったり、鼻が長かったり、首が長かったり、一日中寝て過ごしてたり。人と全然違うけれど、それぞれのやり方で生きている。そんな動物を見てると、なんだか僕みたいなやつも、いていいのかなって。そう思えるんだ。」
私は素直に感心して、同時にうらやましくなった。私にはそこまで深く物事をしろうとしたことが無かったのだ。そして、森下君の持っている、どこか寂しげな雰囲気はここからきているのかもしれない。
もっと森下君の事を知りたい。そう思った。
「森下君……あの、さ……」
自分の部屋のクローゼットを開けて、改めて自分がいかにファッションに興味がないかを思い知らされた。あるのは短パンとTシャツばかり。とても女の子のクローゼットとは思えない。思わずため息が出た。
せっかく一緒に動物園に行く約束が出来たのに。
こんなのじゃやっぱり駄目だ。
初めて冴子や沙織、クラスの女の子達の着ている服が羨ましくなった。
「どうした彩子。お前がそんな顔をしてるなんて珍しいな」
お父さんが不思議そうに私を見る。
「…お父さん。私の服ってなんでこんなのばっかなんだろう」
「なんでって、お前がそんなのばっかり選ぶからだろ。動きやすいからとか言って。……あぁ、そうか、お前もそういうの気にするようになってきたか」
お父さんがにんまりと笑う。
「いいでしょ!私だって、女の子なんだから」
自分の声がしりすぼみになっていくのが手に取るようにわかる。
私は顔を下に向けた。どんな顔をしていいのか分からなくて、まともにお父さんの顔を見られなかった。
すこし間が空いて、お父さんのてのひらが私の頭をそっと撫でた。優しくて温かかった。
こころが落ち着いてくる。落ち込んだりした時はいつもこうやって撫でてもらった。
「そうだった、今月のお小遣いを渡すのを忘れていたな。無駄遣いするなよ」
そう言って、お父さんはお金をくれた。いつもより多く、私にお金を渡してくれた。
「で、なんでまた私たちはここに呼ばれたわけ?」
「冴ちゃん、そこは察しようよ」
作品名:ドードー鳥のウィンク―ハローグッバイ― 作家名:伊織千景