ドードー鳥のウィンク―ハローグッバイ―
(さて、仲良くなれる上に森下君の絵がうまくなる方法は…)
ベッドでゴロゴロして唸っている私の目に今週号の少年ジャンプが目に止まった。
確か今週号のドラゴンボールで悟空がまた修行してたな。短期間でやる結構ハードなやつ。
……そうだ!
そうして私は森下君にめちゃくちゃな要求をした。
絵を描き始めて間もない彼に私は一週間で百匹の動物の絵を描いてくるように宿題を出したのだ。もし私が同じ状況だったら間違いなく途中でへたばる。
見せあいっこという話だったから私も描いたけれど、
しんどかったもん。実際問題。
だからこそ、森下君のノートにきっちり百匹の動物の絵が描かれていた事には正直、驚いた。まあ五十匹描いてきたら上出来だと思っていたから。
私は今も眼の下にクマを作って、ほおっておくと立ったまま寝そうな森下君を見て思い出した。(そういえば最近森下君、よく宿題忘れてきてたな)
どの絵にも手を抜いた様子はなかった。
これで私は森下君の性格、というか性質みたいなものを理解した。
手抜きが出来ないんだ。森下君は。
「もっと雑に描いてくると思ったけど、前見た奴より上手くなってるじゃない!すごい、よく頑張った! 偉い偉い♪」
私はフラフラしている彼を、お父さんがしてくれたように、
頭をそっと、優しく撫でた。
すると森下君の眼から、突然ボロボロと大粒の涙が流れた。
「えっ!?どっ、どうしたの?」
止められない涙を、森下君は袖で拭う。
それでもまだ涙は止まらず、図書館の板張りの床に涙が落ちた。
「ご、ごめんね!確かに一週間で百匹は大変だったよね。」
「いや、違う、違うんだ。……ただ、ちょっといろいろ思い出しちゃって。」
森下君は首を横に振ってそう言った。
次の日、授業が終わった後、久しぶりに和田先生に呼び出された。
「森下君はね、四年前にお父さんを病気で亡くしたの。家族思いのとてもやさしいお父さんだったみたい。だから、お父さんが亡くなった後、ショックで自分の殻に閉じこもるようになっちゃったんだって。今もきっとそう。この気持ち、茜谷さん、あなたならわかるでしょう?」
「……はい。」
私の母、茜谷静音は、小さい頃に交通事故で逝ってしまった。
いつも通りの買い物帰りで酔っ払い運転の車にはねられたのだ。
作品名:ドードー鳥のウィンク―ハローグッバイ― 作家名:伊織千景