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ドードー鳥のウィンク―ハローグッバイ―

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横には何かの図鑑。どうやらそれを写しているようだ。
その横顔は、話しかけるのをためらう位、真剣そのものだった。
勇気を出し、肩をトントンと叩いた。振り向いた彼に、私は聞いてみた。
「君、面白そうなことしてるね。何描いてるの?」

 ―私のお父さんはそこそこ名の知れている絵描きだ・
私はお父さんが好きで、よくアトリエに遊びに行った。
お父さんに褒められたい。初めはそんな理由だったと思う。
「彩子はどんどん上手になるな。偉いぞ。」
その一言を聞くために私は絵を描き続けた―
 
 ポカーンとしている彼をよそに、私は開かれた図鑑を見た。
そこには何か、太ったガチョウとオウムを足して二で割ったような鳥の絵が描かれていた。
「うーん、見たこと無いなぁ…ねえ、なんて鳥なの?」
「あっ、ああ。この鳥のこと? うん、名前はドードーって言うんだ」
まともに声を聞いたのは初めてかもしれない。やわらかく、優しい声だった。
「マスカレン諸島って所にいた鳥でね、肉が美味しかったらしくてさ、
みんな捕まえられちゃって、それで十八世紀に絶滅しちゃったんだ。」
絶滅。つまり、このずんぐりむっくりなこの鳥は、この世界にはもう存在しないという事。そんな当たり前のことに、私は少し、ショックを受けた。
「えっと、動物好きなんだね」
「うん、そうなんだ。茜谷さんは?」
「えっ?私の名前、知ってたんだ」
「そりゃそうさ、だって有名人だもん。」
「あはは、そうよね。あれだけ呼び出し食らってたら覚えられちゃうか」
「それもあるけどね。実は僕、茜谷さんのお父さんの絵を見た事があるんだ」
「えっ、本当?」
「それを見て感動しちゃって、僕も絵を描いてみたい。そう思ったんだ。」
「そっ、そうなんだ。」
自分がほめられている訳ではないけれど、なんだか誇らしい気分になった。
「そこでさ、ひとつお願いがあるんだ」
「へっ?なに?」
「もしよかったらなんだけど、僕に絵の描き方、教えてくれない?」

彼の絵は、技術という面から見ると、お世辞にもうまいとは言えなかった。
けれど、その絵には今にも動き出しそうな独特の躍動感があり、
私はそれに強く引き付けられた。
だからこそ、とてももったいない。
もっと上手になれるはず。出来たらそれを手助けしたい。