ドードー鳥のウィンク―ハローグッバイ―
雰囲気のいいクラスだった。
でも、少し窮屈だった。
なんだか、皆にいい顔をしないといけない気がして。
ただ、彼は、森下君とは違った。
彼の前では不思議と自然に自分を出すことができた。
森下君はいつも受け止めてくれた。
いつも真面目に話を聞いてくれた。
女の子としてちゃんと扱ってくれた。
だから、離れるのが、とても辛かった。
最後に、森下君の方をちらっと見てしまった。
目があいそうになって慌てて視線をそらした。
「はい、これ皆からの手紙よ」
この学校での最後の日、職員室で和田先生が手紙の束を渡してくれた。
「これで本当によかったの?」
「はい、別れは長引くと辛いですから」
「それもそうだけど、私が言いたいのは……っと。これは言っちゃあいけなかったんだっけ」
「なにかあるんですか?」
「たぶんね」
にやりと和田先生は笑った。
「まあ、明日の引っ越しはゆっくりやりなさい。いい?ゆっくりやるのよ」
手紙の束を解き、皆の手紙を見る。
別れというものはなれないものだ。
嫌な思い出はろ過されて、良い思い出ばかり思い出す。
自然と眼頭が熱くなってしまう。
一枚一枚を丁寧に読んでいく。
皆の顔が頭に浮かぶ。
でも、一番読みたかった人の手紙はその束には入っていなかった。
仲良くなれたと思ったのは、私だけだったんだろうか。
心が動かされたのは、私だけだったんだろうか。
胸が押しつぶされるような、どうしようもない気持ちに襲われる。
そして、今日はいつもの図書館の日だという事を今更ながら思い出した。
家への帰り道の途中。学校に引き返した。ちゃんと森下君とお別れしないと。
ひょっとしたら、ひょっとしたらもう会えなくなってしまうかもしれないんだから。
校門の前に着いた時に、ちょうど下校時間のチャイムの音が鳴った。
図書館は、もう鍵が閉まっていた。
荷物をマンション前に止まっている引っ越し用のトラックの中に入れる。
荷物はほとんどお父さんの仕事道具が詰まった段ボールだった。
私の荷物は段ボール二箱に納まってしまった。
貰った手紙は手荷物のリュックの中に大事にしまった。
和田先生が昨日言ったことが気にかかる。
「よし、これで全部詰め込めたな。さあ、行こうか」
作品名:ドードー鳥のウィンク―ハローグッバイ― 作家名:伊織千景