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ドードー鳥のウィンク―ハローグッバイ―

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なにか、とても嫌な予感が頭をよぎった。

お父さんはけっこう名の知れた絵描きだ。性格からは想像もできない力強いそのタッチと激しい色彩で描かれる絵は、フォービズム(野獣派)の新境地を開いたと話題だった。
電話の内容は、お父さんに芸術大学で教授をやらないかというオファーだった。
大学の場所は、今住んでいる所から遠く離れた場所。
とても今のマンションから通える場所ではない。
だから、また引っ越さないといけないことになる。
引っ越しはそんなに珍しいことではなかった。
マンションに住んでいるのも、いつ引っ越ししてもいいためだ。
友達とも適当になれ合って。でもあまり深く付き合わないようにして。
全部、別れる時に辛くなるのを避けるためだった。
お父さんは難しそうな顔をしている。
自分の事を評価して貰えたんだから、もっと喜んでもいいのに。
「出来るだけすぐに来てほしいってさ。彩子は…」
「ついて行くよ。お父さん一人じゃ心配だからね」
私は無理やり笑顔を作った。
「それじゃ、引っ越しの準備をしないとね」
森下君に相談したかった。
「私、どうしたらいい?」って。
でももし、森下君が「行かないでほしい」といったら?
私は絶対いけなくなる。決心が鈍る。
だから、私はそれから意識的に森下君から距離を置き始めた。

引っ越しは一週間後。
担任の和田先生に事情を話して、発表を少し後ですることをお願いした。
しんみりした空気は短い方がいい。別れがつらくなるだけだ。
サッカー部の顧問の先生に部活を辞めると伝えた。
学校が終わると逃げるように家に帰る。
いつかはこうなることは分かっていたのに。
つい、忘れてしまっていた。
こんな気持ち、なかった方が良かったんだ。
そう、心に言い聞かせて、その日その日を過ごした。

そして、引っ越しまであと三日と迫った日の授業の最後、皆にその報告をした。
ざわつきが起こり、それを先生が静める。
何度か見てきた景色だ。
寂しさもあるが、なにか皆を裏切っているような気分になる。
きっと、いつか皆の事を忘れてしまうからかもしれない。
「皆、卒業式に一緒に出られなくて、ごめんね。大好きなクラスでした。向こうに行っても皆の事は忘れません」
別れの言葉を告げ、頭を下げた。