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ドードー鳥のウィンク―ハローグッバイ―

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そんなこんなで十二時になった。いったん休憩とお昼ごはんを食べるために、私たちは動物園内のレストランに入った。

レストランで自分が何を話したかはほとんど覚えていない。とにかく間が空くのが嫌で、ひたすらしゃべっていた。
「それにしても、なんだかどんどん曇ってきたね。大丈夫かな……」
言われてはじめて気がついた。空は雲で灰色一色だった。今にも雨が降りそうだ。
朝の天気予報では降水確率は低いって言ってたような、言ってなかったような…
(まあ、大丈夫だろう)
森下君は心配そうだったけれど、私はそんなに心配していなかった。
今が梅雨だという事も、忘れてしまっていた。

午後は、レストランから近い、オーストラリア園に向かった。
オーストラリアといったらコアラだ。異論は認めない。
あのつぶらな目。愛くるしいふさふさな体。
ああ、一度でいいからギュッと抱きしめたい。
森下君が何か言いかけたけれど、ここは譲れない。
コアラはコアラセンターという施設で飼育されているらしい。
さすがオーストラリアのスター。専門の施設があるなんて格が違う。
それに他の動物と違ってそんなに動かない。
今書かないで、いつ描くのだ。
目を閉じて、深呼吸を数回繰り返す。
スケッチブックを開き、鉛筆を握り、コアラを目に焼き付ける。
そして目に焼き付けたコアラを、鉛筆でなぞるように描く、描く、描く。
隣の森下君も一生懸命にコアラを描いている。
ようやく、「動物を描く」という本来の目的を達成できた気がした。

どれくらいたっただろうか。隣の森下君が、回りをキョロキョロ見始めた。
「ねえ、ちょっと外見に行かない?」
コアラに夢中だった私は、ぞんざいな返事をして絵の方に戻ろうとした。けれど、森下君は真剣だった。
「こんなに人が来ないのはおかしいよ。なにかあったのかもしれない」
「仕方ないなぁ、もう」
森下君の気迫に押されて、私たちはいったん出口に向かった。

テレビの予報が外れるなんて事、あるわけないと思ってしまっていた。
でも、今目の前に見える光景は、お天気おねえさんが予想していたものと違った。
コアラセンターの出口から見えた外は、雨が降っていたのだ。
いつもなら雨なんか気にしない。けれど、今日は……
横から折り畳み傘を、スッと渡された。