ボツネタ作品!
消失のスピンオフで書いた「冥府」ふざボツ
こちらも、ふざけ過ぎでボツ…供養供養!?
『冥府 The world of the dead』
かつての日本には、妖怪なる存在を信じ。
民話や伝承。あるいは昔話として語り継がれてきた。
妖怪とは、何なのか?
それは、人間には理解しがたい曖昧な存在。
人間と異界の狭間に存在するもの。
あやかし、もののけ。さまざまな空間に存在し得るモノ。
それが、妖怪なるものなり。
ここで、ひとりの、と言ってよいのか、妖怪の彼女の事についてほんの少しばかりご紹介しよう。
彼女は、枕がえしといい、日本の妖怪のひとりとされていた。
枕がえしは夜な夜な現われては、寝ている人間の枕をひっくり返す。そういったお茶目な妖怪である。
かの、『妖怪画集・画図百鬼夜行』にも登場するほどの有名人である。
だが、ここでは小柄な仁王の姿で描かれている。
しかし、これから登場するのは、現代の日本女性の姿であった。
彼女もまた、ほんのり、お茶目な雰囲気を醸し出すほどの人間性を垣間見せてくれる。
それと、対をなすかの如く存在するのは、黒い猫。名を千里という。
この千里、実は中国からの移民ではないかと秘かに囁かれている。
中国名「仙狸(せんり)」年老いた山猫の化身とも言われ、すぐれた神通力を持ち人間の美男美女に化けるとされていた。
それと、妖怪として忘れてはならない程の存在感を示している『座敷わらし』だが、残念な事に今回のこの話の中には登場しない。
しかしながら、他作品においては、重要な役割を担っている。
それを踏まえて説明に付け加えておいた。
最後に、友情出演だけとなってしまった彼の事をご紹介しよう。
彼は、「小豆あらい」小豆を洗う事にかけては天下無双である。
が、今回は都合により、端役として参加してくれたことに感謝しつつ。
これからの話を進めたいと思う。
時は文久三年・・・ん。これは失礼。違う台本が重なっていたようだ。ん、うん。
それでは、改めまして、現代の黄昏時。
若き男がどこまでも続くオフィス街を歩いている。傍らには小さな女の子。
年齢にして5、6歳であろうか。傍らの男の手をしっかりと握りしめ、とぼとぼと男に付いて行く。
男の先には、黒猫を肩に乗せた若き女性。
グレーのスーツ姿は、黄昏時の街角に良く映えていた。
後ろを振り返る事無く歩く姿は、キャリア的な雰囲気を醸し出している。
カッカッカッカッ・・・辺りには誰一人として居ない街角。
一瞬にしてこの世の人間が消し飛んだが如く。
無機質なビル群だけが存在する街。
黄昏時のオフィス街を、僕と茜は手をつないで歩いていた。
前を先導する形で、楓が歩いている。
もちろん、あの黒猫の千里も一緒だ。
「あの、いつまで歩けばいいの?何処に行く気です?」早足で歩く楓に訊ねる。
「もうすぐです。ほら、あそこに見えるのが私のカイシャです」
どういう事、会社って。
楓は占い師ではなかったか。不思議に思っていると。
「着きました。此処が我社、エルボスです」
そこには、堂々とそびえ立つ高層ビル。上を見ると首筋が痛くなるほどだ。
そのビルの入口。回転ドアから中へと入ると、フロアの右にエレベーターホール。
中央には階段とスロープがあり、左に受付があるのがわかった。
そこに楓は向かっていた。
後をついていくと、楓が受付を済ませた様子で、僕らに入構証らしき物を手渡してくれた。
「はい、牧村さんはコレ。茜ちゃんにはこっちね」
僕には、IDカード。
茜には、バーコードが刻まれたブレスレット。
「楓さん。これ何」普通の質問をしたつもりだったのだが。
「何を言っているのです。私は楓ではありません」
「へっ」
マヌケな声を発してしまった。
「いやでも、楓さんだし」
頭の先から爪先まで確認したがあの楓だ。
「もう、私はマクラです」
「だから真倉楓さんでしょ」
からかわれているのだろうか?
「違います、枕がえしです。解りやすく言いますと、死に神ですね」
やっぱり、からかわれていた。笑うしかなかった。冗談に付き合うのもこの際仕方が無い。
「ハイハイ、いいですよ。解りました」
「そうですか。ではコチラヘ」そう言うと楓は中央階段へと歩きだした。
階段を昇りきると、何処までも続いていそうな廊下に出た。まるで、空港の動く歩道を想わせた。
僕ら3人と1匹は歩く歩道をゆっくりと進んで行く。
どれぐらいの時が過ぎたのか解らなくなる。茜を見ると、黄昏の日を浴びながら笑っていた。
あの時のまま、6歳の茜・・・
いや、茜は死んだ。18年も前にアイツに殺され、そして僕も・・・
なら此処は、本当にあの世なのか。
楓の言っていた事は、事実なのか・・・
「あの、ここはあの世かな」
「はあ、あの世なんて存在しません」
しっかりと、断言された。
変な奴に思われたか。
それなら、茜はどうなる。夢?
しばらく考えてみたが結論はでなかった。
廊下を過ぎるとラウンジへと抜けた。
彼女は、そのうちの窓際の席へと案内してくれる。
テーブルに、パンフレットらしき物と1枚の用紙があった。
対面に座った彼女が説明をし始める。
「それでは、コチラのパンフレットをご覧になって下さい」
事務的に話しを続ける彼女は、大人の女性を想わせる。
「はあ、コレですか」
他人事のような彼女に、不信感を抱きつつもパンフレットを覗き込む。
そこには、(魂の浄化)と題名が見えた。
宗教団体の勧誘を想わせるパンフレットを僕は見るのを止めると、彼女に対し説明を求めた。
彼女はやれやれといった感じだ。
「それでは、ご説明致します。まず、この会社につきましてですが。我が妖怪社エレボスは、亡くなられた人間の魂を導く事を生業としています」
「えっ、魂?要会社」
僕は手で漢字を書く真似をして見せた。
「いいえ。あやかしの妖怪。妖怪社」
彼女はすました顔できっぱり言い切る。
「ええ、妖怪って。妖怪の会社?」
魂は触れられる事無くスルーされ。
突拍子もない話題に、ついて行く事が出来ないでいる僕を、彼女は完全無視で、強引に話を続けた。
肩に居る黒猫の千里が、チャシャ猫のようにも見え笑っているかのようだ。
「質問は後ほどお聞きしますので、話を続けます。次に、貴方の妹さん、茜ちゃんですけど、不運にも殺害されてしまった。そのような死にかたをされた方は、魂の楔(くさび)を切る事が出来ません。私共がそのような魂を、コチラへ導く事は容易な事ではないのです。そのような場合どうするかと言うと。人間である方達に手伝っていただきます。ここまでは理解していただけました」
「はあ何となく。で、手伝いとは。楔って」
もう、どうでもいいとばかりに答える。
実際は、半分も理解していない。
「はい、私は貴方に啓示を与えました。東京のあの日、枕が落ちていたでしょ。あれは、死に近づいていますよ、の意味です。それから、柳の木の座敷わらしも、旅館の時には、猫の意識を通じて記憶操作も。まあ、最後の記憶捜査は猫又の千里さんがやって下さったんですけどね」
右肩の千里を見つめ、ニッコリと笑った。
やっぱり、猫又だったか。