ボツネタ作品!
「このように、私共はこちら側から、人界の人達にメッセージ的な意識操作を行い。こちらに来られない魂を、救助して戴くお手伝いを、人間であるあなた達にお願いしているのです。ここまでもよろしいですね」
セミナーを聞かされている感じではあるが何となく理解は出来るようになってきた。
「はあ」
「では、話を続けましょう。先程の質問の楔についてですが、魂と人体を繋いでいる紐みたいな物です。本来ならば、普通にお亡くなりになった方は、個人差はありますが1週間ぐらいで自然に解けます。私は、その魂をコチラヘ導く仕事をしています。茜ちゃんのようなケースですと、先程も言いましたが、お手伝いをしてもらい、その魂を見つけて頂きます。そして、切れなくなってしまった楔を断ち切るのが、こちらにいらっしゃる猫又の千里さんなのです」
また、猫又?
何となく、解ってきた気がする。
「それで、茜はどうなるのですか」
横に座って退屈そうに、足をぶらつかせている妹に視線を送る。
「兄ちゃん。あの猫さん抱っこしたい」
突然指を指された猫又は、渋々といった感じで、テーブルをつたって茜の元へ来る。
茜は大喜びで抱き抱える。
(おっ、イイとこあるんじゃない。猫又)
「あぁ、えっと、茜ちゃんは十数年も楔が切れない状態のまま、魂を人界に曝されて居ましたので、多少のリハビリ期間を経て魂の浄化を行います」
猫又の行動に慌てたのか、カミ気味な感じで告げる。
「浄化」
パンフのタイトルか。
「はい、パンフレットの6ページを見て頂けますか」
あらためて、テーブルの上のパンフを指し示す。
6ページ目を開くと、工場のような写真がある。
その写真の右隅に人物が写っているのだが、よく見ると笠井先輩だ。
「あっ、先輩」
それに反応したのか彼女が覗き込む。
「ああ、こちらは貴方の先輩ではありません。
工場長の小豆あらいさんです」
言ってのけた。先輩、小豆あらいだって。
「小豆、あらい・・・」
「はい。工場長の小豆あらいさんは、魂の洗浄、浄化、選別にかけては天下一品です。ですから安心してお任せ下さい」
最後は、胸を張り説明を終えた。
「それで、茜と僕はどうすれば」
何か、釈然としない気持ちではあったが、次に何を言われるのかドキドキしていた。
「ええ、それはですね。茜ちゃんはまだ、今の状況を理解されませんので。お兄さんであるあなたに、ご署名をして戴きたいと」
テーブルの用紙を僕に見せると、説明を付け加える。
「茜ちゃんは、我社のリハビリセンターに入って戴き、数年後になると思うのですが、今のお姿から、魂となり次の段階の生れ変りへと移行します。その同意書が、こちらになります。いずれ、あなたともお会いする事になると思いますよ。はい」
最後にペンを差し出す彼女が、確かに死に神に見えた。
「いずれとは、どう言った事です。茜と僕は離れ離れになると言う事ですか」
「はい、もちろん」
「なぜです」
「だって、貴方はまだこちら側の方ではありませんから」
「どう言う事です。僕は死んでないとでも言いたいのですか」
僕は、アイツに刺されて茜の遺骨と共に埋められたはず。
「はい。どう言った形であれ、貴方を想う人が救って下さいました。感謝すべきでは」
笠井先輩の顔が浮かんだ。
しかし、横で無邪気に猫の千里と遊ぶ茜を思うと、僕が生きている事に虚しさを感じた。生きていていいのだろうか。ただ、茜を殺し、僕を刺したアイツの事も気にはなる。
けど、やっと会えた茜を一人にするなんて、考えられなかった。
「一つ質問していいですか」
「はい、何なりと」
「アイツはどうなります。茜を殺したアイツは。やはり、地獄に落ちるんですか」
どうなろうと知った事ではなかったが、あんな奴が、地獄に落ちずに、僕らと同じように、死んだ後も普通に生き返りを果たすのが許せなかった。
「私の説明不足で大変申し訳ないのですが、先程も言いましたように、あの世も地獄も存在しません」
「地獄が存在しない。そんな馬鹿な。なら、あんな惨い死に方をした、茜の想いはどうなる。あまりにも、不条理すぎないか」
物静かに語る彼女に反し、僕は、感情をむき出しにして訴えた。
しかし、矛先が違うという事も解ってはいた。でも、言わずにはいられなかった。
「あなたのおっしゃる事も、十分にわかります。ですから、冷静になって私の話を聞いて下さい。もしですよ、あの世があったとし、今まで亡くなった方々の数を、考えてみて下さい。魂の行き場がなくなり、パンクしてしまいます。ですから、我社のような施設があるのです。それと、地獄と言えるかどうか知れませんが、人を殺めてしまった方は、別のリハビリセンターへ送られ、そこでは、拘束的なリハビリが続きます。次に過ちを犯さないように、我々の管理下に置かれ、日々物凄いリハビリを行います。その際、ほとんどの方は魂をすり減らし、やがて消滅してしまうのが現状です。それを、人界で地獄と言うなら、そうなのでしょう。納得していただけたでしょうか」
納得はしていない。だが、奴の死後そのリハビリセンターに行きどのような苦悩が待ち受けているか知らない。がそこで消滅するか否かは奴しだいらしい。それが現実だと言うなら、受け入れるしかないと思えた。
「ええ、全てではないですが」
「よかった」
彼女はほっとしたのか、穏やかな表情になり話を続けた。
「それでは、茜ちゃんの事についてですが、先程も言いましたとおり、責任をもちまして、次の段階へいけるよう努めます」
あらためて、ペンを差し出す。
僕は、仕方なしにその同意書にサインした。
そして、茜を抱き抱えると別れを告げた。
「兄ちゃん、また会える」
「嗚呼、このお姉ちゃんが約束してくれた。兄ちゃんは、別のところで待っているから、心配はいらない」
「うん。わかった」
少し欠けた前歯を見せ、茜は笑った。
「牧村さん。茜ちゃんとあなたとの縁は、とても深いものです。断ち切る事は出来ないでしょう。いつかきっと、また会えます」
最後に彼女がそう付け加えてくれた。
「ありがとう。期待しているよ」
そして、彼女たちに別れを告げると、妖怪社エルボスを後にした。
ビルを出て、オフィス街を当てもなく歩いていた時。
ラベンダーのような香りを放つそよ風が僕を包み込む。
それに同化したかのように、その場からゆっくりと消滅した。
いかかでしたでしょうか。
今現在の妖怪たちは、あの世ではなく人間界と異界の狭間で、人間たちの魂を導く役目を生業としています。
しかし、あの世も地獄もないと言っていましたが、果たしてそうなのでしょうか。
目に見えるものがあるべき存在ではないように、人それぞれの考えがソレを作り出すかも知れません。
あなたは、何を考え、何を作り出したいとお考えですか、全てはあなたしだいです。
次回。
『カッパの翔ちゃん捕り物帳』
をお送りします。お楽しみに!!
提供は、河童酒造。塗壁興業。山姥食堂。
でおおくりしました。