小人さんと13番
あるホッカイロとフラグの日
あるお昼時。授業にして四時間目の最中。
夏の暑さが何だったのかと思うほどに冬将軍が大手を振って歩く中、少年は体育の授業に勤しんでいた。
競技はサッカー。明るい緑色の髪をした少年が最も得意とするバスケとは違うが、そこはスポーツ少年らしく上手くもないが下手ではないレベルでチームの仲間とともに点を取りに行っていた。
ホイッスルが試合終了を告げる直前に少年のアシストによって得点が入った。よって少年の属するチームが逆転勝利。仲間との暑いハグの後、授業を終えて野外に放り出された制服へと少年が着替えに行くとブレザーのポケットで丸まった何かが幽かに震えている。
汗をかいた少年は体操着から着々と制服へ着替える。
ワイシャツを着てスラックスを履きベルトを締めネクタイを締めた少年はブレザーを持ち上げるとブレザーの中から「ぎゃっ!」という声が上がる。
少年の細目が少し開かれブレザーへと声がかけられる。
「あ、ごめん。ちっこいの大丈夫か?」
ワイシャツの上にブレザーを羽織り、ポケットの口を拡げ住人を確認する。
そこには丸まった小さな黄色い頭があった。
濃い黄色の髪の毛を一つに結び小さなワイシャツの上に冬用の小さなベストを来た小人は『ガクガクブルブル』といった効果音を周りに浮遊させながらうっすらと涙目で少年を見上げる。
「さ、・・・寒いんだぞ・・・俺様・・・・・・しんじゃう・・・」
少年がせっせと簡易ピッチを駆けてボールを追いかけている最中、北風が通り抜ける曇天に放置されていたブレザーは熱を蓄えることを許さないでひたすら風に吹かれていた。
「本当にごめん・・・どうしよ・・・」
少年は荷物を持ち上げながら途中で温かい飲み物を買って暖めようかと思ったが自販機で販売するそういうのは直に触れていられないなぁ、と考え応急処置として自分の手を突っ込んだが着替えている最中に冷めてしまったらしく「やめろー」と追い出されてしまった。
「あ、そういえばこの間・・・」
クラスメイトにもらった奴が・・・と、少年がエナメルバッグの中を手で探る。
「13番。俺様・・・眠くなってきたんだぞ・・・」
「えっ! だめっ、寝たらだめだから!!」
「だって・・・眠・・・い・・・」
どこぞの遭難者同士の会話だよ、とでも一蹴されてしまいそうな会話が始まるが本人達にとっては非常時であった。
「あった、あったぞ! ちっこいの、これに抱きついて暖を取れ!」
少年が赤と黄色で彩られたパッケージから取り出された携帯サイズのホッカイロをポケットに振ってから差し入れる。
「な、何だこれ・・・」
小人が突如放り込まれたものに少年から言われたとおりぎゅっと抱きつく。
「そのうち暖かくなるから待ってて」
五分後。
「13番これ、すっごく快適だぞ~」
少年は着替えて自分の教室の椅子に腰を下ろすとポケットから響く声。
「生き返ったみたいだね。よかった」
ぬくぬくと暖まる小人は先ほどの事態がなんだったのかという程ゆるゆるとした表情で暖まっていた。
「そのホッカイロ安藤さんがくれたんだよね、後でお礼言わなきゃ」
「?」
「昨日クラスの子にそれもらったんだ」
「お、俺様は誰に命を助けられたお礼を言えばいいんだ・・・?」
「昼休み始まるし机が隣だからそのとき安藤さんに言えばいいんじゃないかな?」
「わかったんだぞ」
少年はホッカイロを抱えた小人を引っ張り出して母親に作ってもらった二人分の弁当を机に広げる。
「13番、今日は一人で食うのか?」
「他の奴らは部活の集まりがあるらしいからねぇ。何にもしないのなんてバスケ部くらいだよ」
「ふーん・・・・・・。お、今日の昼ご飯はハンバーグだぞ!!」
「冷食だけどね・・・あ、安藤さん!」
少年は教室に入ってきた1人の少女に声をかける。
黒髪を二つに結びスカートは短めのいまどきの女の子、といった少女はまっすぐ自分の机に向かってくる。
「何?」
少年に声をかけられた少女――安藤は荷物を置き椅子に座ると少年のほうに向き直る。
「昨日ホッカイロくれたでしょ、あれすごく助かったからお礼を言おうと思って、な?」
少年はハンバーグ(冷食)を食べる小人に顔を向けた。
すると口の脇にハンバーグのソースをつけた小人は大きくうなずく。
ごっくんと口の中のものを飲み込んだ小人は少年にティッシュを要求して口回りを拭うと安藤に向かってぺこりとお辞儀をして御礼を言う。
「俺様を助けてくれ・・・・・・」
「・・・・・・えっ!」
「ど、どうしたの!?」
少年は突然大きな声を上げた安藤に驚いた。
「あ、え・・・このちっちゃいのって人形じゃなかったの?」
「「は?」」
少年と小人は目を合わせる。
「いまさら?」
「私・・・・・・ずっと人形だと思ってた・・・・・・」
「俺様は生きてるぞ!」
「ごっ、ごめんね!」
「うぅ・・・」
「と、とりあえずちっこいのの説明すべきなのかな?」
少年は今までのいきさつを簡単に説明した。
「・・・で、ホッカイロの御礼をしたいと・・・」
「そういうこと」
「だぞ!」
安藤は両手を前に出して「別にそんなのいいんだから!! 大丈夫だからね」と言う。
小人はめげずに「でもありがとなんだぞ!」と言う。
(相変わらずちっこいのは偉いよな・・・・・・)
「えっ、と。どういたしまして・・・かわいいなぁ・・・」
安藤は手を伸ばして小人の黄色の髪の毛の頭をなでる。
途端、教室の一角から歓声が上がる。
驚いた三人は声の上がったほうに目をやるとクリスマスの飾りが教室の壁に飾られていた。
「あ・・・そろそろクリスマスかぁ・・・」
「そうだね・・・・・・あと一週間と少しかな?」
少年が呟きそれに安藤が答えると小人は『なんじゃそりゃ』とでも言いたげに首をかしげる。
「イベントの一つだよ・・・俺には残念ながら関係ないんだけどさ・・・」
小人に語る少年の顔が少し悲しげになった。
すると安藤は何かをかばんから取り出す。
「・・・これいる?」
安藤の手にあったのは二枚の券。
「映画のチケットなんだけど・・・お姉ちゃんに押し付けられて・・・」
少年が手に取ると話題の最新作だった。
「これ!」
「べっ、別に意味はないんだけど・・・お姉ちゃんが彼氏とクリスマスに行く予定だったのがいけなくなっちゃって・・・」
よければ貰ってくれる? と少し恥ずかしそうに手でスカートの襞をいじりながら聞いてくる。
(これ・・・二人分貰ってもちっこいのには必要ないよなぁ・・・しかも座席と見る回もきまってるし・・・)
「ならさ、安藤さんも行こうよ」
「え?」
「どうせちっこいのにはチケットいらないしさ」
「そうなんだぞ! オトクってやつだぞ!」
「え・・・あ・・・その・・・」
安藤はみるみる顔がほてるのを感じていた。
(え、そういう意味じゃないって! でも・・・これはチャンスなのかな? お姉ちゃん助けて!!)
「なんなら今日のお礼でもいいし」
「だからそんな大したことしてないって!」
後ろに転げ落ちそうな勢いで反りながら顔の前で両手を横に振る。
「だ・・・駄目なのか?」
「!」
(こっ・・・これは・・・)
少年が机の上にいる小人を見て目を開く。
(究極の上目遣い・・・だとっ! ・・・ってブ○ーチかよ)