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鏡裏@のべりすと
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novelistID. 9876
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小人さんと13番

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ある風船の日



「13番、あ、あれ・・・」
「ちっこいの、なに?」
「あれだよ、あれ、ほら、あれ!」
「あれじゃわかんないよ」
「俺様に言わせるなー!!」
「・・・・・・ふふ」
下校するアイスグリーンの短髪長身の高校生はとある選挙事務所の前で足を止めた。
胸ポケットに居座るクロムイエローで長めの髪を一纏めにした小人に意地悪そうな顔で話しかけている。
先に言っておこう、この町のこの風景はもはや日常である。
「欲しいならなにが欲しいのかちゃんと言ってよ」
「・・・うぅ・・・最近13番意地悪だな・・・」
「そんなこと無いと思うけどね」
「そうなのかっ!」
「さぁ?・・・で、なにが欲しいのさ」
「んむぅ・・・ふ・・・」
「ふ?」
「・・・・・・ふうせん」
顔をズボッと胸ポケットにしまって少年に聞こえる程度に言う。
あぁ、最近ちょっと小人をいじるのが楽しい。
そんなことを思いながら選挙事務所の入り口前に立つバイトらしき女性に一ついただけますか、と声をかける。
女性はにさわやかな商業スマイルとともに風船を一つ「●●党をよろしくお願いしますね」というマニュアル通りな文句とセットで手渡す。
190近くの男子高校生が風船を持って町を歩く。
そんなシュールな光景にいつもは驚かない市民も少し驚いた。
しかし胸ポケットの住人は目を輝かせていた。
「13番、」
「ん?」
「俺様はお前にお礼を言うぞ!」
「はいはい」
「ちょっ・・・やめっ・・・」
少年は人差し指でぐりぐりと頭を撫でられぎゅっと目をつぶった状態の小人を見下ろす。
きっとハムスターとかが喋られたらこんな感じだろうなぁとやっぱり思うのであった。
(小さくて我儘だけどお礼が言える、そんなちっこいのはハムスターとは比べ物にはならないけどね)
少年は小人から指を離す。
しかし、小人は指の脅威が消えたからといって胸ポケットからなかなか顔を出さない。
(家に着くまでこのままだろうなぁ)
そう思った少年はヘッドホンに手を伸ばして音楽を再生する。


「この紐腰に巻いてみたら面白いと思うんだけど」
家に着き、夕飯を終えた二人は風呂の後部屋でゆっくりとした時間を過ごしていた。
少年はコンポから音楽を再生して。
小人はもらってきた風船で遊んで。
「なんだそれ! ちょっとやってくれよ!」
床に錘をつけておろした風船は丁度机の高さになり、机の上でツンツンと風船をつついて遊んでいた小人はわくわくとした様子で少年側によった。
「よし、やってみるか」
紐を錘からはずして巻き巻きと小人の体に巻く。
「できた、きつくない?」
「大丈夫だぞ」
腰の後ろで作られた結び目を気にしながら小人は返事をする。
「歩いてみたら?」
「おう!」
よーし、と意気込んで小人はジャンプをして一歩を踏み出す。
「!!」
「うおっ!?」
少年は目の前の光景を見て一つの世界的有名な映像を思い出した。
真っ白い、いまだかつて人類が足を踏み入れたことのなかった地に下り立ち歩いた数名の人物たちを納めた映像。
真偽についてよく騒がれていたあの映像。
まさに――
「月面着陸したときみたいだな、それ」
「へ?」
ぽわーんぽわーん、とでも効果音がかかれそうなほどゆったりとした速度で歩く(?)小人を前に少年はすごく頭の中の映像と眼前の光景がマッチすることに驚いていた。

「それにしても楽しいな!」

小人は少年の驚きに気づくことなく現状をとても楽しんでいたのだった。