小人さんと13番
あるハロウィンの日
冬服の胸ポケットから覗く濃い黄色の髪の毛。
鼻から上だけを覗かせた小人の目は町のショーウィンドウへと向けられていた。
小人の納まる制服を着た長身の少年は両耳にヘッドホンをはめてMP3プレイヤーのイコライザをいじっていた。
ふと胸元をぽんぽんと叩き自分を呼んでいる小人に目を向ける。
「13番! あのオレンジ色の奴はなんなんだ!」
少年は顔を胸元の視線からショップのランタンへと向ける。
「あぁ、あれはかぼちゃ。もうすぐハロウィンだから」
「ハロウィン?」
「10月31日にお化けやゾンビや吸血鬼の仮装をしてお菓子をもらうんだよ」
「おぉ!」
「トリック・オア・トリート、お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ! って」
「それやりたいな! 13番、今日は何日なんだ!」
「テンション高い・・・今日は・・・あ、」
「?」
「今日がハロウィンだな」
「トリック・オア・トリート!」
家について自分の部屋を暫し離れていた少年が部屋に戻ると小人は大きな声で両手を差し出す。
「さっそくなの・・・か」
「お菓子くれなきゃいたずらしてやるぞ!」
「んー」
少年はポケットをまさぐり何か無いか探す。
小人は机の上できらきらとした瞳で少年を見つめる。
「ないのか? あるのか?」
「ちょっと、まっ・・・あ、あった」
ごそごそとかばんから取り出されたのは小人が町で見かけたランタンの入れ物に入った飴だった。
しかし飴は残り一個。
入れ物はどうやら少年がクラスで押し付けられたらしい。
『あ、ちっこいのが入りそう』とか考えて処分せずに鞄にしまったのだ。
「アメだけどいい?」
「おう!」
「じゃ、これごとあげるよ」
はい、といって小人の立つ机の上にぽんと置く。
小人は駆け寄るついでに足場のための空になったワックスの容器を「うんしょ、こらしょ」と古典的な声を出しながら押してやってくる。
「ふぅ、どれどれ・・・」
蓋の開いたカボチャ型のプラスチック容器を覗き込むと中に下りる。
「こりゃ何の形なんだ?」
「おばけじゃないか・・・な」
「ふーん」
脇に子袋に入ったおばけ型の飴を抱えた小人はハッと何かに気づいた。
少年はやっとか、という顔をして覗き込む。
「じ・・・13番・・・お、俺様はどうやって外に出ればいいんだ?」
「入ってきたようにしてでてこればいいんだと」
「て、手が届かない・・・ぞ・・・」
「そっかー」
すこしほほが緩む感覚を覚えながら少年は小人に声をかける。
「う・・・うぅ・・・」
わきに抱えていた飴を両手で抱き込むようにして少年を見上げる。
うっすらと小人の目には涙らしきものがたまって・・・はいなかった。
「どうした?」
「でれない」
「うん」
「13番出すんだ!」
飴を床(この場合は底)において手を広げる。
上から覗く少年は一瞬顔を背けて「ふぅ」と息を吐くと手を差し出す。
少年は『あぁ、これは小動物の可愛さと同じだな』という気持ちを吐き出さなければニヤつくことなく小人を見れなかった。
要は彼にとって小人はペットであろうか。
それはさておき。
いつもどおり机に立った小人は「ありがと・・・だぞ」と小さく言うともの悲しそうに入れ物を見つめる。
勿論、少年は察して飴を中から取り出し小人に渡す。
すると見る見る小人の顔は輝きを得ていく。
「13番! 俺様はすごくうれしいんだぞ!」
「うん」
小人の素直な喜びを前に容器に入れたことに少し心を痛めた少年。
よしよしと長い指先で頭を撫でると「あうあう」と少し抵抗する。
その様子を見ていると少年の思考の片隅にパッとあることが思いついた。
「ちっこいの、トリックオアトリート」
少年が意地悪そうに言ってやると小人は悩んでから
「半分こにしようぜ!」
と必死に訴える。
少年は冗談だよ、と一言言うと『あぁ、』と一人納得した。
「以外とちっこいのって優しいよな・・・」