やさしいこもりうた
しばらく歩くと揺れる金属音が微かに風に流れてきた。断続的に繰り返されるそれはブランコだろうか。寂しげに響くその音に引き寄せられるように進み続けた。次第に大きくなる音が正体に近づいてきていることを知らせている。
果たして目の前が開けてくると赤いブランコが形を現した。揺らしているのは銀の髪の少女のようだ。少女は私が近づいてきたことに気づく素振りを見せず、ブランコを緩く揺らしていた。漕ぐ、ではなく揺らすという表現がぴったりだろう、そんな漕ぎ方だ。私が目の前まで来た時遂に少女は動きを止めて、ブランコの赤よりも深い緋色の瞳でじっと私を見つめた。
「あなたは誰?」
温度のない視線から逃れるように少女の容姿へと目を移す。彼女は血液が通っていないかと思えるほど透き通った肌をしており、そんな白に胸元の開いた藍色のワンピースがよく映えていた。
「――マリア」
「独りで何をしているの?」
「なにも」
そこで少女はブランコから立ち上がり、向かいにあるベンチの方へと歩き出した。マリアと名乗った少女のスカートが風でふわりとなびき、細い太ももが晒される。酷く艶かしい様子だった。
少女に話しかけること以外どうすることも出来ない私は、ただ少女の後ろをついていくことしかできなかった。
あんなところにベンチなんてあっただろうか。
あったと言われればそうであった気もするし、突然現れたのだと言われれば納得もしてしまう。もしかしたら見落としていただけかもしれない。改めて見回してみるとブランコだけしかないと思った公園は、すべり台も砂場もある一般的な公園と何も変わらなかった。
「ブランコしかないと思っていたのに」
「それはあなたが見ようとしていなかっただけ」
「最初からあった?」
「さあ」
「判らないの?」
「それはあなたが決めることだから」
少女の言う言葉の真意を掴みかねて、私は違う問いを重ねる。
「どうしてあなたはここに?」
ベンチへ座るのかと思われた少女は、しかしそうはせずくるりと反転して私を見上げた。私の肩ほどもない華奢な体躯が対面する。
「質問ばかりね。あなたこそどうして?」
「それは――」