朧木君の非日常生活(4)
「鬼火ちゃんがいない」
そう、気付いたら消えていた。
忽然と。
一瞬で。
これが――神隠し。
断定はできるが確定ではない。
「これは本物だよ、朧木くん」
完全に舐めていた。
舐めていないと思っていても、やはり心の奥底では考えていたんだろう。
神隠しなんて嘘だ、と。
神隠しなんて起こりやしない、と。
「どうするんだよ、蜻蛉さん!」
鬼火ちゃんが消えた。
文字通り消えたんだ。
「どうするも何も、鬼火ちゃんは神隠しに会った。何処かにあるはずさ。神域へ誘う端境がね」
――端境。
時間の端境はクリアしている。そしたら場所を探すしかない。
鬼火ちゃんのことだ。ひとりでフラフラと歩き、その端境へと入ってしまったのだろう。
その端境を探すのだ。
丑三つ時が終わる、あと十五分余りの間に。
十五分。
それは長いようで、限りなく短い時間だ。
「そして、俺たちも神隠しに会うんだね」
「正解だよ、朧木くん。鬼火ちゃんと同じ場所で神隠しに会ったのなら、多分僕らも同じ場所に隠されるだろう」
もし、この近隣で神域へといざなう端境が何個かあるとする。
そうしたのなら、何処で鬼火ちゃんが神隠しに会ったのか分からない。
そして、鬼火ちゃんと違う所で神隠しに会ったのなら・・・・・・
だからこそこれは、賭けだ。
「冷静に、だよ。答えは一つしかないんだからね、朧木くん」
そう、慎重に。
冷静に。
丁寧に。
緻密に。
繊細に。
調べなくてはならない。
「分かった」
俺は、自分の右手に持っている懐中電灯で辺りを見渡した。
何かヒントがあるはずなんだ。
ないわけがない。現に、鬼火ちゃんが神隠しに会っているのだから。
作品名:朧木君の非日常生活(4) 作家名:たし