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スコーピオン

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まぁそれはさておき。

最近、虫と言う名の盗賊が居て
それがだいぶ物騒で、
人は殺さないらしいのですが
ここ近辺をうろついている、との情報もありますし
できるだけお気を付けてください。
私は隣にいますから、万が一なにかあったら
床の隠しベルを踏んでならして、云々、と
長く続きそうな白海の言葉を遮って
酒を部屋に持ち込み
のらりくらりと
月に赤い水を照らして呑んでいると
(私の不機嫌は
これほどの月日が経っても
一向に改善されず
むしろどんどんひどくなってしまい、
酒は前よりだいぶ好きになってしまった)
急に部屋の窓が開いた、
お、と思い、振り返ると
はたして彼がそこに居た、
前と違っていたのは、だいぶ
身なりが山賊のようなものに近くなって、
伸びた髪はぼさぼさで
後ろに無造作にしばり
また右手にナイフを持っていたことだ。

***

私の胸にほほをおしあてたまま
彼が吐息をつく
こいつは人を縛り上げておいて
人に触れただけで勝手に満足してしまった。
「お嫌でしたか」
相変わらず丁寧な言葉だ。
両手を寝台に縛りあげられた形で
そんなことを聞かれて
なんて言えばいい。
「うん」憮然と答えれば
「はは、ははは」
自嘲するような乾いた笑い方をする。
相変わらず、深い水の底のような青い目は
しかし前のように
純粋さをもたず、むしろ
少しこちらがつらくなるほど
痛みをともなっているように見える。
「あなたが好きでした、
すいません、忘れきれませんでした」
「……」
「今日、夜、窓の下を拝見したら
また蛇がいて、つい」
「うん、お前相変わらずバカだな」
「……あなたはどうして私を買ったんですか」
「うん?」
「……影で
私の、あなたを慕う姿を見て
笑い物にするぐらいなら
目の前に呼び出して、笑ってくれたら
まだよかったのに」
彼の目が奇妙な形に歪む。
「……それぐらいで
出て行ったのか」
「……いえ」
「誰に何を言われた」
無言になる。
「お前への嫌悪を高ぶらせたどこぞのかれが
お前に聞こえるように
お前を理由に私を殺す、だの
うそぶいてたのか?」
びくっとする。
「あのな、どうして
私以外の人間の言うことばかり
お前は信じるんだ?
私をそんなに好きなのに」
「……え?」
はっとした顔にそっと唇を這わせる。
「この縄をとりなさい
まったく、こんな風に縛られるのは
好きではない、いくらなんでも
お前だって、縛られたくはないな」
まるで捨てられた子犬のような顔で
もう一度、私の顔を見る。
「……まぁ、いい
よく覚えておきなさい
私は一応こう言った芸当も習ってきた。
自分の身を守るためにな」
す、と手から縄を抜けると
また、びくっとスコーピオンの体が揺れた。
「それで、もう一つ
覚えておきなさい
私は縛られるより
縛る方が好きだ、

あと、お前の心を知っていながら
知らんふりをして
いじめていたのは本当だけど
笑っていたわけではない、
たのしんではいた

そしてこれが重要だが、
自分を慕い、
また自分も好きである人間に
誤解されて
逃げられるのは
実のところ、
この世で一番嫌いだ」

言葉も出ないで
目を開いているスコーピオンの手を取り
動きができないように手を縛り上げる。
「人を縛る時は
こうした方がいい」
スコーピオンが
口を開き、何も云わずに
あるいは言えずに、また閉じる。
「スコーピオン
戻ってきてほっとした。
前は油断したが
つぎはない
お前は私のものだ、
私のそばにずっといなければならない」

作品名:スコーピオン 作家名:夜鷹佳世子