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スコーピオン

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あの大会の少しあと
スコーピオンに
「最近は物騒だから
私の湯につきあって
背中を流せ」と
言ったことがある。
その時、スコーピオンは話してくれた。
私が、おまえはだいぶ
丁寧な言葉遣いをする
奴隷とは思えないが、どこで覚えた
と、聞くと
私は5歳までは小さな商人の家に
幸いにも拾われた捨て子で、
小間使いをしておりました。
だけど商人は借金を重ねてしまって
仕方なしに売り払われることになりました。
それまで、彼のお客にする態度を見て
生きる足しになるかと
だいぶまねていましたので、と言う。
私の背をこすったあと
その泡を湯で流しながら
「失礼ながら、
ワンさまは、なぜ不思議なお名前なのです」
こういったことが言えるほど
私と彼は、だいぶ親密になっていた。
「うん、私が生まれたとき
母は死んでな、
病で言葉がしゃべれなくなった父に
叔父が私を見せたところ
父は黒い木の茶碗をしめした
それを見た叔父が
私の名前のことだ、と思い込んで
私に「椀」と名付けたのだよ」
「……」
急に押し黙る。
「気にする必要はないよ
父も母も物心つくまでにはいなかったが
私には白海と叔父が居た」
「いえ、物騒だと思ったのです」
「……おまえ、滅多な事を口にするんじゃないよ」
思わず制するように言ってしまう。
「それはほかに聞かれたら、
私の父母が病ではないような言い方じゃないか
私は気にしないけどね
ほかに言ってはいけない」
「……申し訳ありません」
「……いや、まだまだお前はものを知らないね」
いきなり、スコーピオンが
私の背にほほをつけた。
じっと、私は押し黙った。
実のところ動揺していたのだけど
とっさに感情を隠すのはもう癖のように
身にしみついている。
「あなたは……私がお守りします」
「はは、頼んだよ」
「ええ……」
その時、スコーピオンの口ぶりは
大変に決意がみなぎっていて
私はまた、やっかいだ、と思ったものだ。

案の定、スコーピオンは
思慕を逆手に取られて
自らを追い詰めてしまった。

作品名:スコーピオン 作家名:夜鷹佳世子