スコーピオン
私の名前はワン、字で書くと「椀」という。
なんでこの名前をつけたのか
教えてもらわないままに
幼少の頃、父と母は病で亡くなった。
(確信はないが、たぶん、毒殺だったと思う)
「いや、おれは面倒くさい」といいながら
無責任だが私の唯一の味方である叔父が
私が大きくなるまで、という名目で
王を務め、昨年17の誕生日の時にゆずりうけた。
そして案の定
あんまり楽しくない日々をおくってきた。
叔父が仕事をゆずる時に漏らした言葉は
「すごくしんどいから
おまえ覚悟しとけよ
あとしぬな」だった。
スコーピオンを買ったのは
昨夜、付き人であり
友である白海と
一緒に忍び込んだ拳闘会で
(彼は止めたが、
最近嫌なことが多かったので
さっぱりしたかったこともあり
無理やり誘って無理やり忍び込んだ)
猛獣獅子を打ち負かし、
戦いの最中も
終わった後も
変わらない目をした彼を見て
金銀、赤青の石
あわせて30粒の高値で
彼を買ったのだ。
(白海はそれに対して
強く、不満の意を唱えた)
彼は、名前がついていなかった。
「奴隷のやつ」と呼ばれてきた、というから
いくぶん戸惑った。
(なにせそんな奴と喋るのははじめてだったので)
あざを見て、彼の目を見て、
奴隷でいいです、というから
スコーピオンと名付けてやった。
今思えば、
彼の眼の中にある、
私を慕うような色は
その時から、もうずっと
うっすらと浮かんでいたように思う。
そして
私はそれを
すこしだけ
「あれ、やっかいだな、
思慕というのは
意外にやっかいだからな」と
感じていた。