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スコーピオン

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スコーピオン、というのが
彼の名前で
それは私がつけた。
彼の褐色の肌に
サソリのような形をした
深い、黒い、あざがあるからだ。

***

まだ誰もおきていない、
数羽の鳥だけが
小さくないている
静かな朝のうちに
彼は、連れて来られたこの城の中を
物珍しげに眺めながら
自分は13年間、
奴隷として生きてきた。
ので、今まで、奴隷の部屋と
闘技場しか知らなかった、と
こんなところははじめてだ、と
はしゃいでいる。
その顔が実に無邪気だ。

黒い髪が光の輪を作り、
その下の少し濃い茶色の皮膚に
整った顔立ち、二つの蒼い目は
深い水のような、静かな色を湛えている。
しかし、
右だけが半分だけしか開いていない。

この右の眼がひらかなかったり
あざがある所為で、
性的なことはされないできました。

聞いてもいないのに、
なんの恥ずかしさも
おびえもない
まるで雨でも降っている、ということを
ただ話しているような
あるいは底知れない
遠く遠くの闇の中で
星が瞬いている様な
そんな声で話す。

ただ、戦うことを見世物にされてきました、
自分を戦う場に入れてください、
そしたら買ったことを
損だなんて思わせません、と
彼は言った。
奴隷にしてはきれいな言葉遣いだ、と
思った。

作品名:スコーピオン 作家名:夜鷹佳世子