朧木君の非日常生活(3)
「朧木くん、鬼火ちゃん、ここまでは大丈夫かい?」
「大丈夫だよ、わたし鬼だから平気」
「まぁ、なんとか大丈夫」
俺は、半ば協力しようと言ったことを後悔し始めていた。
何が起きるのか分からないのだ。
それこそ、神隠しに会うかもしれない。
それこそ、天狗隠しに会うかもしれない。
「たぶん、この藪地蔵の森の中には、道標があると思うんだ」
「道標?」
「そう――結界とも言うね。元々、道標というのは『道に迷わないように』と作られるものだよね? けど、こういった場所の道標は違う。『集落に禍が及ばないように』『まちがって神域に入らないように』との思いから出来たんだ。ここで言う道標となるのは、お地蔵様さ。道祖神とかね。藪『地蔵』の森と言うからには、道標があるはずさ」
ここで、蜻蛉さんは一拍置いた。
「もし、この道標が何らかの原因で壊れたり、この結界の中から抜けたらどうなるだろう」
――そう、答えは簡単だ。
「神隠しにあう」
――偶然ではなく必然の出来事だ。
「正解だよ、朧木くん」
――もしくは天狗隠し
「それを調べに行くという訳さ」
そう、俺たちは神隠しを調べに行くんだ。
いや、神隠しに会いにわざわざ赴くと言い換えることもできる。
神隠しに会う。
蜻蛉さん的には、逢いに行く気分だろう。
「明日の丑三つ時に間に合うように出発しようか」
「分かった」
いつもの冗談は言えないし、言わない。
これは、嘘でも真でもない。
――仮定
真実に近づいた仮定。
嘘であってほしい仮定。
「朧木くん、ちゃんと準備してくるんだよ」
「何を準備すればいい?」
「神隠しに会う心の準備さ」
蜻蛉さんが、くくく、と不気味に笑いだす。
作品名:朧木君の非日常生活(3) 作家名:たし