朧木君の非日常生活(3)
「――神隠し。古くから伝わる言葉だよね。ある日、忽然と姿が消えうせる現象。昔の人たちは、神域のある山や森、村や里で行方不明者が出ると『神の仕業』と考えたんだ。だから、またの名を――天狗隠し」
――天狗隠し。
神隠しって名前は何回も聞いたことがあるけど、天狗隠しなんて言葉は聞いたことがない。
天狗と言えば、鼻が長く、翼が生えているあれだよな。
飛翔して、人間を連れ去る、ということなのだろうか。
「天狗は山神でもあるし、神でもあるからね。天狗が原因で人間が消えうせる現象を言うんだ」
天狗が人間を連れ去るか。
もし仮に、あのトピ主の友人が天狗に攫われたとしても、攫われた友人は大声で叫ぶだろう。
天狗には、何か人の言葉を奪う術があるのか否や。
はたまた、このトピ自体が嘘なのか。
「天狗と言うのは、あくまで例えの中の話ではあるんだけどね。実際にいるのかどうかは僕にも分からない。そして神隠しというのは、逢魔時や丑三つ時になりやすい。この二つの時間は神域へ誘う、端境とも考えられているんだ」
――逢魔時、なかなか効かない言葉だけど意味だけは知っている。
黄昏時とも言う。現在の午後六時頃だ。要するに昼と夕刻の境目。
丑三つ時は、魔物が跳梁するのにふさわしい時の午前二時半頃。
「そして、藪地蔵の森についてだ。僕もここについては一般的な知識しかないんだけどね。――藪地蔵の森、ここは古くから、確か江戸時代くらいから語り継がれていたんだ。この藪に踏み入れると二度と出れなくなるとね。その伝承が今でも強く残っていて禁足地となっているんだ」
――二度と出れない
そう、ここの森は有名で、このことは俺でも知っていた。
あまりにも有名すぎるのだ。心霊スポットよりも有名な存在。
その禁足地に俺たちは、足を踏み入れようとしている。さながら、ここは底なし沼です。と言われてから沼に沈みに行くような気分だ。
作品名:朧木君の非日常生活(3) 作家名:たし