朧木君の非日常生活(3)
「なかなか楽しそうだろ? 都市伝説魂が疼くだろ? 短編3話にして物語が動き出すのさ」
蜻蛉さんは不敵な笑みを浮かべそう語った。
実に不適だ。
てか、名無しって蜻蛉さんだな、多分。
まずこの俺たちの話は短編なのかな?
「でも藪地蔵の森って遠いだろ?」
藪遣いの森という場所は、ここから5時間はかかるのだ。
「何を言ってるんだい? 欧州に比べれば近場さ」
欧州に比べれば、な。ここは日本だ。
「朧木くん、わたしも藪地蔵の森行きたい」
よし。
「行きましょう、蜻蛉さん」
「そうこなくちゃね。まず、朧木くんは僕に協力するって言ったんだからね」
そうだ、と何かを思い出したかのように蜻蛉さんが続けた。
「朧木くんと鬼火ちゃんにも神隠しのことを詳しく知っていてもらおうか。万が一に備えてね。ここからは冗談抜きの大真面目だ」
確かに神隠しのことなんて大して詳しくない。
神隠しなんて未知の世界だ。味わったことのない世界。もし仮に本当に俺たちが神隠しにあったとして――いや、俺と鬼火ちゃんが神隠しにあったら大変では済まされない。 神隠しに会った本人からは経験談なんて聞けないんだ。何が起きるか分からない。
そこまで考え俺は万が一に備え蜻蛉さんの話に耳を傾けた。
作品名:朧木君の非日常生活(3) 作家名:たし