The Over The Paradise Peak...
BVR 03 CASE “Carmine's”
――時折発砲音やら爆発音やらの聞こえるジャングルに、二種類の声が響いている。
「ゴメス、機動歩兵は見えたか?」
“はい、見えません”
「五人で突破出来るか?」
“はい、可能です”
「よし、五人出して右手から回り込め、対空兵器があるはずだ、適当に叩いたら下がれ」
“はい、五名で右翼を突破、対空兵器を叩いて下がります、私が出ます” .
「任せる。喰われるなよ?」
笑い声。
“噛み付いてきた連中の歯を残らずへし折ってやります!”
「よし、いけ!」
小隊無線が切れた。
周囲には雑多な装備、とはいえ無線を使っていた指揮官らしい男以外は、全員が動甲冑に身を包んだ完全武装の兵士達である。
もちろんその表情は確認出来ないが、漂っているのは古強者のクセのある独特の雰囲気だ。
「さて諸君、やることは判ってるな?」
“連中のケツを蹴飛ばす”
機動歩兵の幾分くぐもった様子の声で応えたのは、ロシア製機動歩兵用アサルトライフル(12.7㍉、ブルパップ構造でストック部分にヘリカルマガジン)を手にした米国製動甲冑である。
“せいぜいお前のケツを燃やされないようにな?”
言いながらお情けに近い笑い声をあげたのは、両手でミニガン(7.62㍉6砲身バルカン砲)を抱え、背中に巨大な弾倉を背負ったロシア製動甲冑だ。
他にも多連装の中国製対地ミニロケットを抱えて、米国製の自動ライフル(9㍉APDSもしくは9㍉MPを発射可能)を背負った日本製動甲冑や、日本製機動歩兵用サブマシンガン(一般歩兵用5.56㍉ライフル弾を使用)を背負い、ロシア製4連装対戦車ミサイル筒を抱えた英国製動甲冑等々、総勢三〇名を超える機動歩兵達である。
一般兵であれば、とても一人では扱えないような兵器を抱えており、それらは全て高度な射撃管制システムの支援を受けている。
自衛隊――空母やら原子力潜水艦やらを配備(全て時限立法やら戦時特別法制の制定やらなんやで乗り切ってしまった)しているこの後に及んでも、日本政府は未だに『軍隊』は保持していないと言い張っている――や軍の宣伝にあるような、『機動歩兵の三人は、一般兵一個小隊に匹敵する』は、誇張ではあっても嘘とは言いきれないのである。
とはいえ、周辺には通常のプロテクタを身に着けただけの、中隊規模の兵士達も行動中だし、後方には火力陣地に大隊規模の支援部隊も展開中なのだが、それにしてもこの男達の装備は普通ではない。
明らかに正規の軍組織のそれではないのだ。
まずもって米国辺りの補給士官が見たら、熱を出して悪夢にうなされる事必至の兵士達の群れである。
軽い笑いの応酬を適当なところで切り上げ、厳しい表情で全員を見回す指揮官。
「いいな、空港設備と民間機は傷ひとつつけるな。民間人もだ。JG、左翼は無理に維持する必要はない。何かあったら即座に後退しろ」
「サム、突入は任せる。後からディナのアーマーも出るからな、遅れると獲物が無くなるぞ? 以上だ、何か質問は?」
同時に全ての動甲冑がそれに応えた。
ある者は雄叫びをあげ、ある者はコッキングレバーを引き、ある者は弾倉を叩き、ある者はゴリラの様に胸の増加装甲を叩き、またある者は親指を上げた右手を突き出す。
指揮官らしい男はそれに、現代の枢軸軍どころか、WWⅡ時のドイツ陸軍もしくは日本帝国陸軍でも見本にしたがるであろう、見事としか言えない陸軍式の敬礼で応える。
――そして、後方の火力陣地から発射された砲弾の飛翔音が響き始めた。
「行動開始!」
作品名:The Over The Paradise Peak... 作家名:海松房千尋