The Over The Paradise Peak...
BVR 02 CASE “MASAKI”
勝手に入り込んだ長い通路の先に現れたのは、ちょっとしたバッティングセンターかゴルフの練習場はある、広い貨物の集積場である。
作業中だったのだろう。そこは混沌としていて、縦横に走るベルトコンベアーが、その乱雑さに更なる拍車をかけている。
見たところ二〇人程の人々が数人づつの小さなグループに別れ、座ったり話しあったりしているが、互いにかなりの距離をおき、なにやら牽制しあっている様子だった。
「ここなら多少はマシかな?」
恐らく至近距離で多少の爆発が発生しても、爆風で飛び散ったガラス片に曝される脅威は無いだろう。崩れた荷物が怖いと言えば怖いが、伏せてしまえば、滅多な事では怪我はしないはずである。
もちろん直撃されたら同じ事ではあったが……。
通路から一番近い駐機場に続くシャッターはその3分の1ほどが開けられ、外からは戦闘車両やヘリの巻き起こす、禍々しく凶悪な騒音が響いていて、何やら叫ぶ声も聞こえてくる。
「大丈夫かな?」
不安げな久美の声に、改めて周囲を見渡す正樹。
久美は兵器や兵士の存在感が、ロビーより逆に、戦いの場に近づいてしまったように感じられて怖いのだろう。
「ロビーにいるよりは、多分?」
ロビーいるのは反対だったが、それ以外は自信があってしている訳ではない正樹の答えは、どうしても歯切れの悪いものになってしまう。
「それよりこの荷物って、もしかして、飛行機から勝手に降ろした物だったりしないかな?」
田舎の小空港にしては、貨物より如何にも旅行者の物である、スーツケースやら旅行鞄やらが多いのである。
しかも多くが航空貨物用のバレットやらコンテナから出されている。
「本当だ……なんでだ?」
もちろんおぼろげながら予想は出来る。
もしかしたら、コロンビア国軍は難民の荷物を強奪するつもりだったのではないか?
そう言うことである。
もしもそうなら、枢軸や連合の支配力が大幅に減ったものと考えざるを得ない。両陣営のどちらか一方の勢力であっても、ある程度の影響力が残っているなら、こんな真似をしてただで済むわけがないのだ。
もしも、や、まさか、といった、不快な予想ばかりが脳裏を過ぎる。
「私達の荷物も有るかな?」
多分ある。
「……探してみよう」
と、二人が手近な荷物から手当たり次第にひっくり返していると、後ろからスペイン語や英語の会話に混じり、日本語の会話までもが聞こえて来た。
「あれ? 伊丹さん達も来たみたいだね?」
うれしそうに笑う久美を見て、思わず正樹の頬も緩んでしまう。しかし、どうやらこの場所も、相当混み合う事になりそうだった。
作品名:The Over The Paradise Peak... 作家名:海松房千尋