The Over The Paradise Peak...
BVR 01 “Scene Of The Recall”
――受講の最後に面白い物を見せよう。
ここに、一本の、黒い糸の様な物が見えている。
……我々が東セラや帝仁と共同開発に成功した炭素チューブだが、このたった1本の管が世界に与えた衝撃は計り知れない。
君、君の家には自律機械はあるかな?
……そうか、二足歩行タイプか?
……うん、うん、ホンダ製だな、私も使っているが……あれに使われている駆動装置の大元となっているのがこれだ。
そして、これが一般的な形状。
こちらは見たことはあるだろう?
太さはおよそ三センチメートル。
仕様によって差はあるが、この導管がおよそ六〇〇〇本から一万本程が縒り合わり、更にそれが束になっている。
もちろん大型の物はもっと太い物が使われることになるが――。
この……片方にターミナルを取り付け――こちらのレギュレータに繋ぎ――圧搾空気タンクから空気を――送る……。
――面白いだろう?
まるで筋肉のように収縮したのがわかるかな?
実際には一本一本の管は収縮していない。
膨らんだだけなのだが、もう一度、こんどは電気を流してみよう……こちらも同様収縮したのが見えたかな?
これも実は収縮していない。
温められた水が水蒸気になって膨張しただけだ。
実に単純な仕掛けだろう?
これを縒り合わせる事で、圧搾空気及び電力で作動する筋肉に見立てた訳だ。
柔軟で強靭、しかも非常に安定していて何より軽い。
その気になれば内燃機関としても使えるし、最近の物はイオン導電性高分子ゲルを使っている物もある。
このたった一本の炭素チューブによって、産業機器はもちろん、世界の家庭用ロボットは爆発的な発展を遂げた。
何より最も大きな影響を受けたのが――……アーマー?
……悪く無い答えだ。
陸軍の装備でもいいだろう。
たとえば枢軸の軍隊から一般的な、いわゆる「普通科歩兵」が消えるまで、僅か二年しかかからなかった。
今では枢軸の陸軍兵士は全て増力機構付きの動甲冑を着た機動歩兵であり、消防や警察の特殊部隊や――時間か。
……次回は――あ……夏休み明けか。
課題のレポートを忘れないように。
……なにか質問は?
無いかな?
それでは――。
……最後の夏休みを楽しみたまえ!
作品名:The Over The Paradise Peak... 作家名:海松房千尋