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雨の記憶

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 幾つかの信号を越えた所で、学生服が目立ち始めた。丁度、近辺の中学の部活動が終わる時間らしい。部活動を終えた中学生達が帰る時間と重なったのだ。二人はというと、小雨の中、傘はおろかレインコートを羽織る事もなく、器用に中学生をよけながら少し危険なスピードで商店街の交差点へと差し掛かった。
「貴人、待って!!」
 貴人の後を追っていた祐斗が、一瞬、学生の波に阻まれ、貴人から数メートル離れた。
「待ってってば!!」
 大声を出してみるものの、追い立てられるようにペダルを踏む貴人に祐斗の声は届かない。目の前の学生の固まりの中へ、鈴(りん)を鳴らしながら突っ込んで行く。……“目の前の学生の固まり”。交差点、横断歩道の手前で足を止める学生が一人二人と増えて固まっていく。そう、信号が“赤”なのだ。貴人の鈴に気付いた数人が振り返りざま、自転車をよけるように道を開ける。立ち止まっている人間の束の中に入って来た自転車に迷惑そうな表情をしていたその顔が、緩む事のないスピードに青ざめていく。通り過ぎる車側の信号は“赤”に変わったものの、左折してくる車の信号はまだ“青”のままだ。曲がってきたトラックが大きくクラクションを鳴らし、それに驚いた貴人の自転車が……止まった。

  
  ――――――――――――
 一年前の梅雨だった。空の上で悪ふざけをしていて、大切な“虹の雫”を地上へと落としてしまった。失くしたりしたら叱られる。いや、そんな事は大した事じゃない。ふざけていて落としてしまったのだ。コンビを解消されるかもしれない。
 天使に正確な年齢がある訳ではないが、見るからに少し年下のこの相方が可愛くて仕方なかった。喜怒哀楽が激しくて、わがままだったり、甘えん坊だったり……。
『いいようにあしらわれてるだけだよ』
 と周りの天使達は言うけれど、そんな事はない。他の天使達には笑顔で誤魔化していても、自分には本音で話してくれる。ちゃんと頼りにしてくれているのだ。
 だから、今更他の天使となんかコンビは組めない。あいつも、俺も!
 だから、だから、こんな事で……。
『ちっくしょっ!!』
 落ちていく“虹の雫”に精一杯手を伸ばす。
作品名:雨の記憶 作家名:竹本 緒