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夏 光一郎
夏 光一郎
novelistID. 14184
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ドンキホーテと風車

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 今回は、東海学園大学大学院修士課程修了者の彭力君の通訳のおかげで、実り多い視察旅行ができた。視察団という形で行くと、どうしても聞き取り内容が限られるのだが、聞きたいことを聞き、答えてくれるので得た情報量は膨大なものになった。彭力君は一旦三月に中国に帰ったのだが、初めは民間企業に入りたかったそうだ。しかし、六月に開発区に入ったばかりにしては、よく知っていると思った。もともと江蘇省塩城の生まれで、南京大学の付属の農業院に入り日本で日本語を二年間学び、大学院に進んだのだ。今年二八歳になるわけだがなかなかしっかりした、『今時珍しい』青年だ。塩城スピードという言葉を教えてくれた。何かというと、ビルの一階を上へ立てるのに一日で一階上へ伸びること、また中心部のレストラン街は、計画終了後半年で完成させたのだそうだ。土地が国有だからできることだと思われるが、それにしても早いスピードだ。開発区内には、まだ農家の民家が残っているが、これもいずれは立ち退きだという。跡地には高層マンションが建つことになるが、元住民がその新築マンションに入ることもあるという。プレスタワーがそびえ、テレビ局の高層ビルも目立つ。電動バイク、スクーター、バイクが通勤手段のようだ。この街の発展の行方は目が離せないと感じた。
「農民の利益を守らなければならない」
と、彭君はしみじみという。郊外の農村地帯の住居は二階建てで、外から見た感じでは、親子三世代が住める間取りだ。若い人が都会に働きに出て定住すると、親を読んで一緒に生活するケースも増えているという。

(注)  http://www.winpro.co.jp/


 2010年10月4日(月)
珍しく雨。ドン・キホーテ、田原市蔵王山へ登る。
 ドン・キホーテは大学教授だ。だがドン・キホーテは大学教授という職業があまり好きではない。別に嫌いではないが。
「どっちなんだ?」
「はい。まあ嫌いな方です」
「何故だ」
「嫌な大学教授がウヨウヨいるからだ」「嫌な大学教授とはどんな奴だ」
「ろくな研究もないくせにテレビやマスコミにばかり出る奴らだ。政治に口出しする奴もいる」
「名前を言え」
「誹謗中傷になるから言えない」
「お前らしくもない」
「じゃ言おう。ABCDEF教授だ。おっと準教授もいる」「誰だ?」
「雑魚はどうでもいい」
「人権蹂躙だな」
「勝手にしてくれ」
・・・
こうしてドン・キホーテは学生十一人を連れて田原市を目指した。学生ほどドン・キホーテの寿命を縮めるものはいない。いくら騎士道猛々しいドン・キホーテにも限界がある。
十一人の内、二人は電車であとの九人は車で来た。あと二人いるのだが、この二人は就活で欠席だ。田原市へは、名古屋からJRか名鉄で豊橋まで行き、そこで豊橋鉄道三河線で三河田原まで三十分で着く。学生の車に乗り切れない二人をタクシーに乗せて蔵王山山頂へ向かう。風車がキーキーと油切れしたような金切り音を出して回っている。展望台の店には月曜日という平日にもかかわらずに、何人かの客が来ている。
 2010年10月17日(日)
 曇り、微風。大分涼しくなってきた。現代のドン・キホーテこと瀬川は、またもや風車を訪ねて旅に出た。と言っても今回は最近動きが活発な小型風力発電機メーカーWINPROを訪問する。本社は新潟市にある。インターネットで小型風力発電機メーカー数社取材申し入れをしておいたところ、WINPROが快く応じてくれた。ドン・キホーテは喜び勇んで出かけた。
 東京で上越新幹線「MAXとき」に乗ったまではよかった。三号車に座り駅弁を食べる瀬川の耳に、
「越後湯沢で八号車以下は切り離します。八号車以下は新潟までは行きませんのでご注意下さい」
「じゃ越後湯沢の手前で九号車へ移動すればいい」
と思って、新幹線がカーブを大きく右へ曲がるとき、進行方向右側の座席に座っていた私の目に、信じらんないものが飛び込んで来た。なんと九号車と八号車の間は車両を連結しているため連結通路がないのだ。要するに簡単に言うと八号車から九号車へは行けないのだ。私は三号車に乗っている。ということは越後湯沢で三号車から九号車まで駅のホームを歩かなくてはならない。不吉な予感が私の脳裏を走った。次は大宮だ。大宮を出たら越後湯沢まで停まらない。慌てた瀬川は駅弁を喉へかき込み、販売の女の子に聞いた。
「通路を歩いて何号車で行けますか?」
「八号車までです」と答えが返ってきた。ドン・キホーテは愛馬に跨がりーいや重いカバンを肩に掛けー歩いて八号車まで移動開始。カバンの中にはパソコンが入っているのだ。重い。大宮に着くまでに何とか八号車までたどり着かないと。
 しかし読者はご存知だろうか?「MAXとき」は二階建て構造で、車両間の移動は階段を降りて次の車両へ行きまた階段を今度は登って次の車両へ行く。上越新幹線をよく利用している方なら当たり前の話しだろうが、ドン・キホーテに取ってはなんともこれがまどろっこしい。旅の必需品を沢山カバンに詰め込んでいるので、年をお召しになったドン・キホーテ様にはたまらない。上越新幹線が大宮のホームに滑り込んだと同時に八号車へたどり着いた。ドアが開き、無事九号車へ移動出来た。座席も空いていた。
「JR東日本の関係者の皆様方、また日本国民の皆様方この哀れなドン・キホーテ様に同情くださいませませ」
「東京駅のホームのアナウンスをよく聞かないお前がわるい?」
「そうか」
とドン・キホーテは反省した。

>藤枝932―西焼津935―952静岡1019―新幹線―1147東京1212―上越新幹線―1414新潟

 新潟には予定より早く着いたので、信濃川に掛かる万代橋を見学。賢明なる読者でお年を召した方なら美川憲一をご存知だろう。あの男みたいな女みたいな歌手。あの人は若い頃は男らしい風体に渋い歌声で多くのファンを魅了したものだが、いつからあんなに女っぽい男になり果てたのかその訳を知っている人がいたら教えてください。「そんなこと本人に聞け!」
「それもそうでござるな」
ドン・キホーテは物わかりがよい。
「美川憲一と万代橋がどうした?」
その美川憲一の歌に、新潟の人(ひと)というのがあり、歌詞に万代橋が出て来るのだ。
「この歌を知らない知な輩はカラオケへ行って是非聞いて欲しい」
とドン・キホーテは息巻く。
「バカ、CDショップで買うんだろうが!」
「そういう手もある」
と、ドン・キホーテは負け惜しみを言う。初代万代橋、二代目万代橋、現在の万代橋の写真を撮り、馬ーいや今度はバスに乗って新潟駅へ引き換えす。バスには早くも暖房が入っている。
 新潟は風が強い。時折強風が雨を運んで来る。二日前には新潟県胎内市を竜巻が襲ったばかりだ。
対馬海流が例年より暖かく気候が不安定なのが原因らしい。乗用車、住宅、農業用ハウスに大きな被害が出た。ドン・キホーテはこのような事件我あるたびに胸を痛めるのだ。
作品名:ドンキホーテと風車 作家名:夏 光一郎