赤い瞳で(以下略) ep1-2
「すっっごい寂しがりだよ?」
「え?」
――は?
僕と更衣さんは、同時に、声のした方へ目を向けた。そこには。
「あ、……紅也、さん」
紅也か、何だ、と更衣さん。
紅也さんは、何だとはなんだいと、くっくと笑った。長く艶やかな黒髪が、真っ白い病室に美しく映える。
「今日もちゃあんと、見舞いに来てあげたんだよ。感謝してよね」
言って、更衣さんの隣に座る紅也さん。相変わらず人形のように綺麗な顔だ。これで男だと言うのだからいやになる……。
「どうも今日は、えっと……、アラタ君」
「あ、はい。今日は」
僕は慌てて頭を下げる。
「で、雨夜君?」
なんだよ、と更衣さん。若干、紅也さんから離れた場所に移動している。
「僕が帰った後、殺人事件が起きたんだって?」
ああ、と肯く更衣さん。紅也さんはいつのまにかまた、更衣さんのすぐ傍まで距離を縮めていた。……やっぱり、仲、良いんじゃないのかな?
「見つけたのは、君なんだってね」
ぶっきらぼうに肯く更衣さん。本心からどうでも良さそうだ。
「……だったろう?」
不機嫌そうに肯く更衣さん。紅也さんは、何と言ったのだろう。上手く聞き取ることが出来なかったのだけど。
「そうだ、そういえばアラタ君、さっき君の妹さん……雪花ちゃんと、そこで会ったんだけど」
「え? 雪花にですか?」
「うん。それで、伝言頼まれたんだ。何か、さっきは言い忘れてたらしい」
「はあ……。それで、何と?」
「今夜十二時、病院前の公園で待っていると」
「……え? 十二時、……って、言ってたんですか」
「うん。明日は特別な日だから、って言ってたよ」
「はあ」
夜の、十二時――深夜じゃないか。そんな時間に、雪花が一人でここまで来るって言うのか? ……心配だ。
「何かあるの? 明日」
赤い瞳で、僕に問う紅也さん。更衣さんはその隅で、紅也さんから少しでも離れようと努力していたが、それも空しく壁に阻まれていた。
「え……と……。何か、あったでしょうかね……? 特に、何もなかったように思うんですけど」
「へえ。雪花ちゃんの、誕生日とかでは?」
「いえ、雪花の誕生日はまだです。それに、僕や祖母の誕生日でもないし……」
僕の言葉に、紅也さんが不思議そうに首をかしげた。
「あれ? ご両親は?」
「…………ああ、もう死にました。一年前に。……あ」
命日。
明日は、父と母が殺された、その日だ。
『特別な日』
そうか、道理で――
僕に直接、言えなかったわけだ。
「どうかしたの? アラタ君」
僕の目の前で、紅也さんが、手をひらひらと振っている。どうやら、少しぼーっとしていたらしい。
「いえ、すいません……。でも、心配だな……通り魔とか出ているらしいし」
「うん、確かに心配だね。そうだ、雨夜君も連れて行くと良いよ」
――は? 紅也、お前何言って……。
突然の言葉に、更衣さんは迷惑そうな顔をする。しかし、それに構うことなく、紅也さんはにこやかに続けた。
「何、って提案だよ、提案。そんな面白いカオしないでよ、雨夜君」
「あの、……そんな、更衣さんは、無関係ですし」
「良いじゃないか、そのくらい。年下の子供の面倒を見るのは、高校生として当たり前だの……、って古いか」
「?」
一人で笑う紅也さん。
更衣さんはすごく渋い顔をして、紅也さんを見ている。……ああ、何か悪いなぁ。
「それじゃ、一緒に、仲良く行くんだよ? 気をつけて……」
くすくす笑う紅也さん。
憮然とした表情で、渋々肯く更衣さん。
「……それじゃ、お願いします……」
僕は、流されるままそんなことを言って、頭を下げてしまったのだった。
作品名:赤い瞳で(以下略) ep1-2 作家名:tei