赤い瞳で(以下略) ep1-2
5
翌日、雪花がやって来た。
泣きはらしていたのか真っ赤な目をしていたが、表情に悲しみはなかった。――あったのは、自責と後悔の念。そして――
「雨夜、おにーちゃん。今日はあやまりに来ました」
――あやまりに……?
「はい。いろいろと迷惑をかけました……本当に、ごめんなさい、です……」
ぺこり、というよりは、深々と。
雪花は、俺に向かって頭を下げた。
「本来なら、私だけの問題でした――……それにその、……私のこと、警察や院長先生にも言わないでいてくれたこと、ありがとうございます……」
――ええっと……いや、そんなこと良いんだ。それより、俺の方こそ……あの時、止めてやれなくて、……ご免な。
「いいえ。それを他人に求めた、私が悪いんです。……だから」
『罪は償おうと思うんです』
――え?
「これだけ言っておこうと思ってたんです。……本当に、本当に――」
ごめんなさい。それと、
……ありがとうございます。
そう言って。
雪花はにこりと笑って、俺に背を向け――病室から出て行った。
――…………?
罪を、償う……?
罪を、……。
はっとして、俺は手元の(何故だか手元に置いてあった……)紅也の本を開く。三ページ目を急いで開くと。
『小さき者、かくして魂を売り渡さん』
――ああ……紅也。そういうことか。『つかみはOK』って、……あの悪魔め……。初めっからそれが狙いで、あの兄妹に近付いたんだな……。
思わず呟いて、嘆息する。
流石は悪魔。――いや、流石は紅也、と……言うべきか。
「褒めてくれて有難う? 雨夜君」
――なっ……。
気がつくと、目の前に紅也が立っていた。今日は学ランではないようだ。……って、ええ?
――え? ちょっ……こう……や……さん?
「何? どうかした? 人の顔見て驚くなんて、失礼だよ?」
ふふ、と笑う紅也の姿は――どう見ても、女物の服装だった。……だって、おい。スカートって。
俺が絶句していると、紅也は「ああ」、と気がついたように自分の服の裾をつまんだ。
「これ? いやー何か、服買いに行ったら店の人に薦められちゃって」
――だ、だからってスカートはないだろ、スカートは……。
「似合うでしょ。ま、当たり前だけどね。僕が造った体だもん、何着たって似合うよね」
その自信はどこか間違っているような気がするが……、そうだな。まあ、確かに、似合ってはいる。
「ふふん。そうでしょ。今日はこれを見せるためだけに見舞いに来たようなものだからねぇ」
――嘘つけ。どうせ、雪花の魂を貰い受けに来たんだろ。
「あ、ばれた?」
ハハ、と笑う紅也。
――――それにしても。
チェック模様の入ったロングスカートに、シンプルなシャツ(リボンが付いている。本当どうなんだ、これ)という組み合わせはいささか定番過ぎるとも思うんだが、そんなことを除いても。
似合いすぎだろ。
「あはは、そんなに褒めないでよ〜。ああ、あと、雪花ちゃんの魂は、まだ貰わないよ」
――え?
「だって、ほら言ったでしょ。一度した契約は、完遂するまで他のものに手を出せない、って。君との契約はまだ終わってないから、雪花ちゃんが死ぬまで、彼女の魂は貰えないんだ。死後の魂は完全にフリーだからね。予約しとけば、確実に手に入るし」
――……そうか。
「うん。それにしても、楽しみだなぁ。雪花ちゃんの魂、名前の通り真っ白な色をしてたら良いなあ……味にも関わってくるし」
ああ、そうだな、と適当に相槌を打ってから、俺は慌てて口を挟んだ。
――って、おい。聞き逃しそうになったけど、お前、魂、食べるのか。
「ん? ……ああ、ええっと……うん、食べる……よ」
――…………。
「だ、大丈夫大丈夫! 君のは食べないから」
そう言い張る紅也だったが。
実際、そういう問題ではない、と俺は思った。
作品名:赤い瞳で(以下略) ep1-2 作家名:tei