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赤い瞳で(以下略) ep1-2

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――アラタ君、避けろ!
「…………っえ?」
 急に更衣さんが怒鳴り、僕はそれに驚いて一歩、後ずさる。その直後。
 びゅん、と。
 僕が今まで立っていた場所を――空間を、切り裂くような音が聞こえ。
 銀色の、硬質なきらめきが、目に映った。
「ぇ」
 びゅん。
――……! アラタ君、逃げろ!
「え。え。えっ……」
――くそっ……。
 更衣さんは僕に駆け寄り、その勢いのまま僕の手を掴み、街灯の無い方へと走る。ものすごい速さだった。
「あ、あの……っ、更衣さん?」
――ナイフだよっ! 分かんなかったか? アラタ君、狙われてたんだぞ!
「え、えっ……? 僕がですか?」
――だってほら、後ろからまだ追いかけてくるの、聞こえんだろっ。
「…………」
 確かに、後ろの方からは、たたた、と走って追いかけてくる足音が。
「ナ、ナイフ通り魔……でしょうか?」
――分かんねー……。だって、……通り魔って、こんなにしつこいもんか?
「さ、さあ……」
 そのうちに街灯の光は届かなくなり、僕と更衣さんは闇の中を手探り状態で走り続ける。目が慣れるのを待つ余裕もない。足音はまだ、僕らを追いかけてきている。公園は案外広かったが、行き着いた先が悪かった。野球用につくられたスペースの、フェンスが張り巡らされた隅に、僕らはいつのまにか追い詰められていた。
――ちっ……。方向が悪かったか……。
 更衣さんは急いでフェンス沿いに走り、回り込もうとする。僕もそれに続くが、一歩踏み込んだ時に、何かが聞こえ、足を止めた。
「あの、更衣さん――」
――なんだよっ! 立ち止まってないで、早く――。
「何か、聞こえませんでしたか?」
「…………ちゃん!」
「声……!」
――あ、ああ……俺にも聞こえた。
 更衣さんは戸惑ったように立ち止まる。そのとき、さっきよりも更にはっきりと、声が聞こえた。
「お兄ちゃん!」
「……雪花っ?」
 雪花の声だ。街灯があった方向から、聞こえてきた。
 雪花……、雪花、なのか?
「更衣さん、……通り魔、まだここに追いついてこないって、……おかしく、ないですか?」
――……! まさか、雪花……が……。
 更衣さんは、何かに思い当たったように口元に手をやる。
「お兄ちゃん、助けて……!」
 雪花の、切羽詰った声が、僕に助けを求めている。ナイフ通り魔は何故、僕と更衣さんを追いかけて来なくなったのか? それは――。
「標的を、変えたんだ……!」
 言いながら、僕は来た道を走り出す。
――あ……ちょっと待て、アラタ君……!
 後ろから、更衣さんが僕を引きとめようとする声が聞こえたが、待つはずがない。妹が危ない目にあっているというのに。僕に助けを求めているというのに。今にも殺されるかもしれないのに。
 今にも死んでしまうかもしれないというのに。
「雪花っ……!」
 失いたくない……失いたくない。
 失うものか。
 街灯の光が、雪花を照らし出しているのが見えてきた。
「雪花、大丈夫か?」
 どうにか間に合ったらしい。街灯に照らされる小さな雪花の姿には、傷一つ見当たらない。
「通り魔は……?」
 雪花に近付きながら、僕は辺りを見回す。辺りに、人影はない。
「あ……お兄ちゃん」
 うつむいて泣いていた雪花が、顔を上げて僕を見る。
「雪花、もう大丈夫だよ……」
「お兄ちゃん……!」
 雪花は小さな体で、僕に向かって走ってくる。ああ、良かった。雪花が無事で――……。
 雪花は屈んだ僕の胸に飛び込んできた。
「本当に、良かった……雪」
 花、という言葉は、が、という呟きに変わり、虚空を漂った。
「せ、……つ、?」
 雪花はゆっくりと。
 僕を貫いたナイフから手を離し――、くすりと笑った。
作品名:赤い瞳で(以下略) ep1-2 作家名:tei