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赤い瞳で(以下略) ep1-2

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――あ、……ちょっと待て! アラタ君!
 俺がいくら引き止めても、アラタ君には届かなかったようだった。それは、そうだろう。妹が襲われそうになっていると考えれば、彼なら絶対、行くに決まっている。
 しかしその行為が正当性を持つのは、本当に妹が襲われそうになっているときだけだ。
『小さき者、その刃を持って自らの因果を貫かん』
 赤表紙の本の二ページ目に、記されていた文。全く、古風な言い回しだと思う。
 初め見たときは何のことだかさっぱり意味が分からなかったが……、今なら、何となく分かるような気がする。
『小さき者』とは雪花、『刃』はナイフ。
 だとすると。
 アラタ君を止めなければ、取り返しのつかないことになる。
――ちっ。
 舌打ちして、俺はアラタ君の背を追いかけた。しかし、――速い。妹を助けるという目標を見据えたアラタ君の脚力は、年上の俺でさえ、容易には追いつくことができなかった。
――アラタ君っ……!
 ようやく追いつくと、アラタ君が、雪花を抱きしめているところだった。
――…………っ!
 もしも紅也のあの文が、俺の考えどおりのことを言っているのだとしたら。
 もしも本当に、『因果』というのがアラタ君なのだとしたら。
 もしも雪花とアラタ君の間に、殺意を生むような『何か』があったのだとしたら。
――アラタ君! 雪花から離れ――……。
 俺が言い終わるよりも早く、雪花が、アラタ君から離れた。
 ゆっくりと。
 至極緩慢な動作で、――ある意味、優雅に。
「あれ……。誰かと思ったら、アマヤおにーちゃんじゃないですか……」
 雪花は、笑いながら俺を見た。
 その隣で、アラタ君がどさりと地に伏す。顔を上げて雪花を見、両手で胸の辺りを押さえている。……まさか、間に合わなかったか。
「ちょーっと、遅かったですよ、アマヤおにーちゃん……。お兄ちゃんは……ううん、『悪い』お兄ちゃんは、もう私が」
「雪花……」
 雪花の口上は、アラタ君によって遮られる。
「何故……どうして、僕を……」
 アラタ君の声は弱弱しく、台詞の所々で何かを口から吐き出しているようだ。……血、か。
「なんだ……、まだ喋れましたか。でも、もう体力なんて残ってないでしょうし……そうですね、理由を教えてあげましょうか」
 雪花は、ふうと息をつく。そして、俺を見て、口を開いた。……
「あのですね。……まず、そこで死に掛けてるお兄ちゃんは、私の本当のお兄ちゃんじゃありません」
 はあ?、と俺は声を上げる。
 本当のお兄ちゃんじゃありません? どういうイミだ。
「まあまあそう焦らないで、聞いてください、アマヤおにーちゃん。まず初めに、……お兄ちゃんが、今の『悪い』お兄ちゃんになった時のことを、話しますね?」
 くすくす、と笑って。
 雪花は、狂ったように笑って。
 狂ったような、可愛らしい瞳で……俺を見つめた。
作品名:赤い瞳で(以下略) ep1-2 作家名:tei