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リュリュー
リュリュー
novelistID. 15928
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樹竜の旅

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「お、おまえまさか…。いや、あなた様は…な、何かの冗談じゃ…!?」

「竜だ。これでもまだ冗談と言うつもりか?」

間髪入れずにそう答えると、俺はマントを取り払った。露わになったのは、クリーム色の体毛と、全く同色の大きな鳥のような翼。大陸で神様と崇められている竜。それが俺の正体だった。竜の翼を見られてしまった以上、もうマントで隠す意味はない。

「わぁぁぁっ!!!!」

羽を一目見るなり、若者は尻尾まで毛が逆立てると、背を向けてよろめきながら逃げ出した。若者の叫び声に配給の列に並んでいた人々もめんどくさそうな顔でこっちを振り向いたが、その途端一帯は火のついたような騒ぎになった。

「竜!?あれ確かに竜様じゃないかっ!?」

「間違いない…竜だ!」

「誰か、早くお偉いさんに通報…!」

「バカ、またとないチャンスなのにあの連中に教えるな。金だ…金きっと持ってる筈だ。」

「大丈夫なのか?神様じゃなくて本当は悪魔だって噂も!?」

「神様だろうと悪魔だろうとそんなことどうでもいい!!凄い権力を持てるぞ、権力が。」

配給所の列はあっという間に消えさった。居合わせた人々は俺を距離を置いて取り囲み、
遠くの建物の角や、窓からチラチラと覗いている。憎悪や畏怖の表情はなく、珍獣を見て
いるような目で見ているが、正直いい気はしない。

「やっぱり正体をばらすんじゃなかったかな…。」

マントをクルクルと畳んでカバンにしまい込むと俺はため息をついた。

「なんだこりゃ、凄い歓迎ぶりじゃないですか…。」

竜を見た瞬間の住民の豹変ぶりに、クリオが唖然として周囲を見回す。クリオも俺が竜で
あることは承知していたが、さほど気にせず他の獣同様の扱いで俺に接していた。まぁ、
それゆえに同行をしているとも言えるだろう。

「だろうね。この国だと竜の俺を味方につけたら望むモノが手に入るって言い伝えがある
って聞いていたから。しかし、まさかこれほど大騒ぎになるとは思わなかったな…。」

「いいじゃないですか、だって神様なんでしょう?凄く歓迎されてるってことじゃないで
すか?」

「全然良くないぞ。どうも竜としてじゃなく、都合のよい願いマシンがやって来たとしか
思っていないみたいだし。ほら、特にそう思っていそうな奴らがやってきたぞ。」

群衆が犇めく通りの更に向こうに目をこらすと、数台の車両が土煙を上げてここに向かっ
ているのが分かった。車の群は周囲の群衆を追い散らすと、俺を取り囲むようにして停車
した。車からは戦闘服に身を包んだ兵士達が次々と現れた。

「驚いた、本当に竜様だっ…!」

一番中心に陣取っていた黒い車からは、毛の色が薄くなった小柄な鼠が姿を見せた。不釣
り合いなほどやけに派手な服装に、勲章らしきモノがいくつも縫いつけられている。配給
の途中、半ば強引に立ち去られた人々は、半ば憎悪に近い表情で連中を睨んでいたが、
そんな視線を気に掛けず、俺に目を向けるなり喜びを露わに話しかけてきた。

「ようこそ我が国に、いらっしゃいました!何という幸運なんだ、間違いなく竜神様です
ね…!?」

「ええ…。竜であることは否定しません。一族が決めている巡拝の旅で大陸の回国をして
いるところです。正確にはこの国が一番最後の巡拝地なのですけれどね…。」

「素晴らしい…!これでこの国も一層豊かになるぞっ。こんな汚れたところは竜様が居る
場所にふさわしくありません、私たちが直々に安全と快適を約束する場所までご案内しま
すので、どうかご同行を…。おいっ、そこのシバイヌのガキ!何だお前は?」

「やめてください!この子は私が依頼した旅のガイドですよ!!」

俺は慌てて初老の言葉を遮った。本当は旅先で旅費を無くして途方に暮れていたシバイヌ
少年を俺がガイドの名目で共に旅をしていたのだった。もっともそれを言ったら即座にク
リオもその場から追い払っていたに違いない。

「それとお心遣いは有り難いですが、まだ自分は旅の途中ですし、竜だからって特別扱い
をされたいとは思いません。」

「ごもっともです。しかし神聖な竜様である以上、我々のもてなしに対してはお断りせず
ご厚意を受けて頂くのが道理かと思われますが…?」

言葉遣いは丁寧だったが、選択の余地は与えられなかった。慇懃無礼とはまさにこのことだろう。

「分かりました、ならば参りましょう。但し、クリオも一緒です。さもなければどんな待
遇であろうと、私は城にいきませんよ。」
「かしこまりました。ではどうぞこちらへお越し下さい。」

俺の答えに初老の男は満足げに乗っていた車へと歩き出す。

「本当にいくの?こんな連中と。」

傍らでクリオが憮然とした表情で囁く。シバイヌのガキと言われたことに内心腹を立てて
いただろう。

「行くさ。この分だとまともなホテルが見つかりそうもないし。」

そこまで言うと、俺は身を屈め、初老が開いた車へ乗り込んだ。


作品名:樹竜の旅 作家名:リュリュー