樹竜の旅
樹竜の旅 〜〜サクリフアィス ヴィクセン〜〜
1 荒廃の街
「なんだ‥これは。」
古くから王権が続くレイルシティ。その街の入り口に降り立った俺は、荒廃した街並み
をみて驚きを隠せなかった。
街の入り口から続く大通りの左右には、屋根が全て崩れ壁の衝立や骨組みが丸見えにな
った家がいくつも見えていた。その間にある空き地では錆だらけの機械の残骸が放置され、
その隙間からイネ科やチコリ科の雑草が残骸を隠すように生い茂っていた。獣達が生活し
ている証として、掲示板には真新しい求人募集の用紙や官報が貼られていたが、その掲示
板も角が消えてもうボロボロだ。スラム特有の廃棄物の山やバラックは見られなかったが、
大通りから外れれば目の当たりにするのだろう。
街の中心部へ歩くにつれ、その酷さが一層際だって見えた。増え始めた商店や屋台の店
先を覗くと、あるのは値段が殴り書きされた品物が二つ三つ置いてあるだけ。品物が何も
置かれていない店も少なくなかった。更に進むと近代的なビルも所々に見えるようになっ
てきたが、どれもボロボロで鉄骨がむき出しのままだった。中には上半分が崩れてそのま
ま放置されているビルもある。
「酷いや…僕たち道を間違えていないですよね?」
俺の隣を歩く少年が、そんな廃墟のような街並みを信じられないような顔つきで見回し
ていた。
「地図を見る限り間違いはないよ。でも…一体どうなっているんだ?仮にも一国の首都の
中心街だぞここは…。」
「僕が聞きたいですよそんなこと…。やっと街のホテルでゆっくり休めると思ったのに…。」
「正直ホテルどころじゃないかもしれないな…。こんなところにケモノが大勢生きていけ
るのが不思議な位なんだから。」
そう言うと、俺は歩道の至る所で座り込んでいる獣達に目を向けてみた。…ニヤニヤと笑
いながら喋っている所を見ると、飢えて座り込んでいる…というわけではなさそうだ。
「単に暇つぶしで座っているみたいですね。でも生活のオカネや食糧はどうしているんで
しょう?」
「わからないねぇ。あの商店を見る限り、店で賄っているとは思えないし。大きな闇市も
全く見ないな。クリオ、これじゃホテルが見つかってもご飯抜きになりそうだな…。」
「呑気なんだから…。そのホテルそのものが見つからなかったらどうする…あれ?」
クリオと呼ばれた少年が言ったその時、俺達の直ぐ脇をこれまで目にすることのなかった
大型のトラックが通り過ぎ、すぐ前の路肩で車体を軋ませて停車した。その途端、周囲を
ぶらついていた人々が何かを口々に叫ぶと、そのトラックを追いかけ始めた。トラックを
追う最後尾を走るイヌの尻尾が激しく揺れているのが分かる。
「何をしているんでしょう…あれって?」
獣だかりに近づくと、トラックに積まれた大型のコンテナが、次から次へと地面へと下ろ
されている。最寄りの建物からは人が現れ、何かを叫ぶと集まった群衆を脇へと追いやっ
ていた。その間にも群衆が次々と集まり、小競り合いが起こりながらも長蛇の列を作り始
めていた。列の先頭で何かを受け取り、足早に立ち去る黒ネコのおっちゃんが持っている
モノをみると、紙箱に入ったクラッカーに、銀色に光る缶詰らしきものが二つか三つ…。
「あれってもしかして配給所でしょうか…?」
「うん…。どうやらそうみたいだね。あのクラッカーや缶詰ってこの国内で作られたモノ
ではなさそうだし。あれがちゃんと行き渡れば飢饉ってことはなさそうだし、とりあえず
は大丈夫かな。」
「大丈夫じゃないですよっ。これじゃあ僕らの今日の夕飯、下手したらクラッカーの残り
カスだけしか…イタッ!!」
(ドンッ)
不意に、鈍いと音と共に、クリオの身体が前のめりに倒れた。よそ見をしていたイタチの
若者が、歩道の陥没した穴につまずき、前方にいたクリオにそのままぶつかったのだ。一
瞬顔をしかめた若者は、ぶつかって転んだクリオをめんどくさそうに一通り眺めたが、「ぷ
っ。」と鼻で笑うと、そのまま背を向け歩き出した。
「おいっ、何だ今の「ぷっ。」は?」
俺はそう怒鳴ると、立ち去ろうとするイタチの若者の肩を掴んだ。ギッと若者を睨むと、
若者も見上げるような格好で睨み返してきた。
「なんだよ、そんなのお前には関係ないだろ!図体でかいからって偉そうな事言うんじゃ
ねぇ。」
若者は早口でそう言い捨てると、もう用はないとばかりにクルリと背を向けた。再び歩き
出す若者に向かって、俺は肩の毛にぐいっ…と指を食い込ませた。このまま知らん顔で立
ち去られたまるものかっ。
「痛えっ!何するんだ!!」
「悪いことすれば痛いのは当たり前だ!形だけでも良いからクリオに謝れ!」
「ふざけるな!何で俺の得にならないことをしないといけないんだ。てめえはこの国のヘ
ボ国王の知り合いか、それとも神の化身の竜様か?たとえそうだとしても俺に指図するん
じゃねえ!」
今度こそ本当にふりほどこうとしたのか、若者は思いきり肩を振り払った。その時、彼の腕に俺のマントが引っかかり、ぱさりとマントが捲れ上がった。
「あっ!!!!」
若者が小さく叫んだ。余程驚いたのだろう、マントの端が手からこぼれ落ちたが、目は俺を凝視したままだ。
「なっ!!おまえ…名前は…!?」
「アイラス=ラ=ドラグーン=プラト。」
「なっ!?」
ドラグーンという言葉を聞いた瞬間、若者は電気に打たれたように硬直した。
1 荒廃の街
「なんだ‥これは。」
古くから王権が続くレイルシティ。その街の入り口に降り立った俺は、荒廃した街並み
をみて驚きを隠せなかった。
街の入り口から続く大通りの左右には、屋根が全て崩れ壁の衝立や骨組みが丸見えにな
った家がいくつも見えていた。その間にある空き地では錆だらけの機械の残骸が放置され、
その隙間からイネ科やチコリ科の雑草が残骸を隠すように生い茂っていた。獣達が生活し
ている証として、掲示板には真新しい求人募集の用紙や官報が貼られていたが、その掲示
板も角が消えてもうボロボロだ。スラム特有の廃棄物の山やバラックは見られなかったが、
大通りから外れれば目の当たりにするのだろう。
街の中心部へ歩くにつれ、その酷さが一層際だって見えた。増え始めた商店や屋台の店
先を覗くと、あるのは値段が殴り書きされた品物が二つ三つ置いてあるだけ。品物が何も
置かれていない店も少なくなかった。更に進むと近代的なビルも所々に見えるようになっ
てきたが、どれもボロボロで鉄骨がむき出しのままだった。中には上半分が崩れてそのま
ま放置されているビルもある。
「酷いや…僕たち道を間違えていないですよね?」
俺の隣を歩く少年が、そんな廃墟のような街並みを信じられないような顔つきで見回し
ていた。
「地図を見る限り間違いはないよ。でも…一体どうなっているんだ?仮にも一国の首都の
中心街だぞここは…。」
「僕が聞きたいですよそんなこと…。やっと街のホテルでゆっくり休めると思ったのに…。」
「正直ホテルどころじゃないかもしれないな…。こんなところにケモノが大勢生きていけ
るのが不思議な位なんだから。」
そう言うと、俺は歩道の至る所で座り込んでいる獣達に目を向けてみた。…ニヤニヤと笑
いながら喋っている所を見ると、飢えて座り込んでいる…というわけではなさそうだ。
「単に暇つぶしで座っているみたいですね。でも生活のオカネや食糧はどうしているんで
しょう?」
「わからないねぇ。あの商店を見る限り、店で賄っているとは思えないし。大きな闇市も
全く見ないな。クリオ、これじゃホテルが見つかってもご飯抜きになりそうだな…。」
「呑気なんだから…。そのホテルそのものが見つからなかったらどうする…あれ?」
クリオと呼ばれた少年が言ったその時、俺達の直ぐ脇をこれまで目にすることのなかった
大型のトラックが通り過ぎ、すぐ前の路肩で車体を軋ませて停車した。その途端、周囲を
ぶらついていた人々が何かを口々に叫ぶと、そのトラックを追いかけ始めた。トラックを
追う最後尾を走るイヌの尻尾が激しく揺れているのが分かる。
「何をしているんでしょう…あれって?」
獣だかりに近づくと、トラックに積まれた大型のコンテナが、次から次へと地面へと下ろ
されている。最寄りの建物からは人が現れ、何かを叫ぶと集まった群衆を脇へと追いやっ
ていた。その間にも群衆が次々と集まり、小競り合いが起こりながらも長蛇の列を作り始
めていた。列の先頭で何かを受け取り、足早に立ち去る黒ネコのおっちゃんが持っている
モノをみると、紙箱に入ったクラッカーに、銀色に光る缶詰らしきものが二つか三つ…。
「あれってもしかして配給所でしょうか…?」
「うん…。どうやらそうみたいだね。あのクラッカーや缶詰ってこの国内で作られたモノ
ではなさそうだし。あれがちゃんと行き渡れば飢饉ってことはなさそうだし、とりあえず
は大丈夫かな。」
「大丈夫じゃないですよっ。これじゃあ僕らの今日の夕飯、下手したらクラッカーの残り
カスだけしか…イタッ!!」
(ドンッ)
不意に、鈍いと音と共に、クリオの身体が前のめりに倒れた。よそ見をしていたイタチの
若者が、歩道の陥没した穴につまずき、前方にいたクリオにそのままぶつかったのだ。一
瞬顔をしかめた若者は、ぶつかって転んだクリオをめんどくさそうに一通り眺めたが、「ぷ
っ。」と鼻で笑うと、そのまま背を向け歩き出した。
「おいっ、何だ今の「ぷっ。」は?」
俺はそう怒鳴ると、立ち去ろうとするイタチの若者の肩を掴んだ。ギッと若者を睨むと、
若者も見上げるような格好で睨み返してきた。
「なんだよ、そんなのお前には関係ないだろ!図体でかいからって偉そうな事言うんじゃ
ねぇ。」
若者は早口でそう言い捨てると、もう用はないとばかりにクルリと背を向けた。再び歩き
出す若者に向かって、俺は肩の毛にぐいっ…と指を食い込ませた。このまま知らん顔で立
ち去られたまるものかっ。
「痛えっ!何するんだ!!」
「悪いことすれば痛いのは当たり前だ!形だけでも良いからクリオに謝れ!」
「ふざけるな!何で俺の得にならないことをしないといけないんだ。てめえはこの国のヘ
ボ国王の知り合いか、それとも神の化身の竜様か?たとえそうだとしても俺に指図するん
じゃねえ!」
今度こそ本当にふりほどこうとしたのか、若者は思いきり肩を振り払った。その時、彼の腕に俺のマントが引っかかり、ぱさりとマントが捲れ上がった。
「あっ!!!!」
若者が小さく叫んだ。余程驚いたのだろう、マントの端が手からこぼれ落ちたが、目は俺を凝視したままだ。
「なっ!!おまえ…名前は…!?」
「アイラス=ラ=ドラグーン=プラト。」
「なっ!?」
ドラグーンという言葉を聞いた瞬間、若者は電気に打たれたように硬直した。