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リュリュー
リュリュー
novelistID. 15928
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樹竜の旅

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「キズナッ!キズナ!!大丈夫かっ!?」

未だに胸のフサ毛に顔を押しつけていたキズナにむかって俺は呼びかけた。何度か呼びか
けたところで、キズナの耳がピクピクッと反応し、うっすらと目を開けて俺を見つめてき
た。

「竜神…さま…?今一体何を?」

「間一髪で君の願いを聞き入れたよ。ほら、見てご覧…?」

そう言って俺が指さした先には、先程まで暴れていた群衆達の姿があった。誰もがもう動
こうとせず、呆けたようにその場に座り込んでいた。

「竜神様…?…みんなに一体何をしたの…?」

「咆吼で一喝して、暫くの間大人しくして貰った。俺の咆吼、単なる大声とはちょっと違
うからね。無事だったのは俺に身体を押しつけていたキズナだけだろう。」

「無事じゃないわよ。尻尾の先にまで震動が伝わってきたし、頭もチョットくらくらする
…。でも…ありがとう…。」

安心したようにキズナが言った。そんな彼女の頭を撫でると、俺は尻尾がピクピクと震え
ていへたりこんだままの国王と群衆のリーダーらしき獣を一瞥し、畳んでいた翼をバサリ
と大きく広げて見せた。

「どうやら、この国の俺の役目はここまでだな。キズナ、俺につかまってくれるかな?

「あ…はいっ?」

不思議そうな顔をしながらもキズナは素直に俺の腕へとつかまってきた。そんな彼女をし
っかりと抱きかかえると。俺は広げた翼を大きく2,3度羽ばたかせた。

「竜神様…もしかして飛べるのっ!?」

「勿論っ。その気になればとっととおさらば出来たよ、こんなとこ。」

俺はそう答えると、トンッとバルコニーの床を蹴った。その瞬間、俺の身体はその場でフ
ワリと浮き上がった。

「あああっ!竜様が行ってしまう!」

「竜様待って下さいっ、もう何もしませんから!!」

浮き上がった瞬間、群衆達の僅かなどよめき声が聞こえてきた。必死に立ち上がろうとし
たり、俺へと手を伸ばす姿が見えるが、まだ半日は動けないだろう。

「あんた達に最後に二つだけ言っといてやる。一つは200年前に訪れた伝説の竜、その
竜の名前はイギラス=ラ=ドラグーン=プラト、俺の祖父だ!2つ、そのイギラスという
竜が二百年前にこの国が前に豊かになったという言い伝えは残ってるな?あれはまるっき
し全部嘘だ!」

直ぐ上空でホバリングしつつそう叫ぶと、動揺と困惑の反応が下から聞こえてきた。腕に
抱かれたキズナも驚いたような顔で俺を見上げている。

「爺様が言っていた。その頃の国民はみんな国を豊かにしようと日夜必死に頑張っていた
って。自分たちの手で地質を調べ、鉱脈を見つけ、それを国民に公平に分配するシステム
を作り上げた。爺様達も手伝ったけれど、居ようと居まいとどのみち豊かになったって話
しだ!竜の恵みが欲しいならあとは自分たちでどうするか考えろ、それすら出来ないのな
らもう俺は知らん!」」

それだけ言うと、俺は再び羽を強く羽ばたかせた。

「ああっ!行かないでくれ!!」

「た、頼む…最後の…チャンスを!」

「断る!!竜にすがるな、自分にすがれ!!」

思い切り舌をだしてそう答えると、俺はそのまま上空へと飛び上がった。群衆の上半身だ
けが右往左往する姿が下の方に見えていたが、すぐに景色に溶け込んでしまって見えなく
なった。



 そのまま上空に飛び立った俺は、一路北の方角を目指て進んでいった。眼下には濃淡の
ある森林地帯がずっと続いている。レイルシティはもう遠い彼方に霞むようにしか見えな
くなっていた。

「ありがとう…。」

胸に抱かれたままのキズナがぽつりと呟いた。その言葉に俺は首を振った。

「いいや、お礼を言うのは俺の方だ。もし君が止めなかったら、流血沙汰は避けられなか
っただろう。…ありがとう、キズナ。」

俺の言葉にキズナは恥ずかしそうに胸に顔を埋めてきた。

「これからどうするの?」

「プランティアに向かうよ。クリオがそこで待っているから合流しよう。あとは今回の件
について龍神府が色々処理するように依頼してあるから、暫くはそこに滞在することにな
るかな。」

「いい人達…多いの?」

「いろいろ…かな、いい人が多いと思うけれど悪い人だって少しはね…。さっ、少し速度
を上げるからしっかりと捕まっていて。」

「はい…竜神様。」

「そろそろ俺を竜神様と呼ぶのはよしてくれ。アイラスって呼ばれた方が嬉しいな。」

「はい。アイラス…様。」


「あはは、やっぱり「様」は付けるのか…。でも、それでも構わないや。」

俺は笑うとじっと背中に乗るキズナに目を向けた。淡黄色だったキズナの毛は、夕日を浴
びてキラキラと黄金のように輝いて見える。

「キズナ…もしかしたら君って女神様なのかな…?」

「…?」

「…なんていうか凄い綺麗に見えるからさ…。その…心を奪われるくらいにね…。」

「やだ…アイラス様ったら…。」

顔を真っ赤にして恥ずかしがっているが、内心表情は嬉しそうに見えた。こんな綺麗な
子と俺は今までずっと一緒に居たんだな…。いいや、もう今までだけじゃ満足できない…。

「…きずなずっと俺の背中にこうして乗ってくれないか…、いつまでも一緒に。」

一瞬、キズナは何も答えず不思議そうな顔をしたが、すぐに意味を察したのか目は大きく
見開いて俺を見つめてきた…。

「美味しい料理…食べさせてくれる?」
「もちろんさ…。その料理も一人で食べるより二人で食べた方が…幸せだろう?」

俺の言葉に、キズナは何も言わず背中ににギュッとしがみついてきた。眼下の森は後ろへ
と過ぎ去り僅かな明かりが、地平線の先に見え始めていた。

作品名:樹竜の旅 作家名:リュリュー