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リュリュー
リュリュー
novelistID. 15928
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樹竜の旅

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エピローグ  



「竜神にこのような処置は断じて許してはならない、レイルシティに国際介入を行う!」

翌日、俺とキズナがプランティアの竜神府に到着したとき、既にレイルシティへの対応は
取られていた後だった。俺が書いたレイルシティの現状と国王のふるまい、そして竜神府
の象徴役である俺を事実上軟禁したという手紙から、彼らが動き出したのだ。直ちに直下
組織の一団が送り込まれ、その日のうちに、俺の咆哮で大人しくなっていたレイルシティ
は、竜神府が暫定的に援助と治安維持を行うこととなった。事実上の管理下に置かれるこ
とになるけれど、彼らならばレイルシティの人々を、二等、三等市民のように扱いはしな
いだろう。

 それから数ヶ月後、俺とキズナ、そして合流したクリオはプランティアからカイ大陸へ
向かう高速鉄道にの個室席に乗り込んでいた。それまで俺はプランティアでレイルシティ
の再建に関わっていたが、あとの処理は竜神府に任せておけば大丈夫の筈だ。

 時速300?で地面を滑るように走る高速鉄道はキズナにとって初めてだろう。滑るよ
うに過ぎ去っていく景色を、彼女は窓に齧り付くようにして眺めていた。黄金の毛は今で
も輝いていたが、そのお腹が大きくなっていた。

 キズナと一緒に遠ざかる次々と後ろへ過ぎ去る街並み眺めていると、向かい側に座って
いたクリオが話しかけてきた。

「もう…あとどれくらいで産まれるのかな、キズナの中の子って。」

「そうだなぁ…もう2ヶ月ってところかも。到着したらハンティルで病院探さないとね。」

そう言うと、俺は隣でぴったり寄り添っているキズナのお腹を軽く撫でた。

「どちらの子に似るか楽しみだなぁ…。それにしても不思議だよなぁ…。キズナってあん
な国の中で独りぼっちだったのによくスレずに生きて来れたと思うよ。」

不思議がるクリオの言葉に、キズナが恥ずかしそうな笑顔を見せた。

「本当言うとね、私だって最初は他の獣達と同じこと考えていたわ。イケニエになると思
ったときはアイラス様を騙してでも生きたい、楽したいっという誘惑はあったもの。」

「あれ、そうだったの?」

「うんっ、アイラス様ゴメンナサイ…。でも、アイラス様に出会ったらそんな気持ちなん
て吹き飛んじゃった。もう、この竜神様に私の一生捧げてもいいって思ったモノ。」

「そうだったんだ。やっぱりそれってアイラスさんに命を助けられたから?」

「ううん、それもあるけれど 何よりも凄いプレゼントをを貰ったから。」

「えっ?何だいそれは?」

「多分コレのことだろうな。」

俺はそう言うと、鞄から白いケースを取り出した。初めてキズナに出会ったときに見せた
種の詰まったあのケースだ。俺はその白いケースを開けると、添え付けのテーブルの上に
コトリと置いて見せた。

「何ですかそれ?」

「まぁ、見てごらん?」

そう言うと、俺はパチッと爪を弾いた。途端に種が一斉に発芽し、すくすくと育ち始めた。
数秒と経たずにテーブルの上は、小さな木々で溢れる森になった。そこで実を付けたのは、
クミンにクローブ、そして唐辛子に胡椒…。

「あっ!これってカレー粉の材料?」

「大当たり。これに国に来る途中に農家と物々交換した野菜にイネの種も大きくして…全

部使えば立派なカレーの出来上がりさ。」

そこまで説明すると、クリオが納得したように頷いた。

「キズナ達に与えられていた食料は全て配給用の保存食品だけだったんだ。住民どころか

あの国王ですら新鮮な野菜や果物は口に出来なかっただろう。それでピンときたんだ。新
鮮な野菜や果物、そしてお手製の料理をキズナにプレゼントしようって。俺が一番最初に
作ったカレーライス美味しかったろう、キズナ?」

「うんっ!「美味しい」って味は初めて。あれでもう竜神様にずっと付いていこうって決
心したの。毎晩何度も好きなだけしてもいい…ってね。」

にこっと笑ってそう答えると、キズナは膝の上に乗ってきた。おいっ、嬉しいけれどクリ
オが見てるぞ。

「羨ましいなぁ…。」
複雑な表情で目のやり場に困っていたクリオだったが、不意に真剣な表情になり、俺に問
いかけてきた。

「その野菜や果物を、あのレイルシティの住民がみんな食べていたら、変わっていったの
かなぁ‥。」

「どうだろう、それはあの国の獣次第だね。これを食べて『自分たちでも作ろう』と思う
かもしれないし、『もっと欲しいから奪い取る』と思うかもしれない。最悪『コレがない
と生きて往けないからイケニエを差しだしました』なんてのもあり得るぞ。世の中、みん
な同じ考えを持っているわけじゃないからね。」

「じゃあ…下手したら今の竜神府の管理も無駄になるってことも?国外でひっそりと年金
暮らしになったあのダメ国王を呼ぶわけにもいかないし。」

「大丈夫さ。国がどうなっていくかはあの国民次第だけれど、少なくても歩む道は出来る
はずだ。物事に「無駄」なんてことはないよ。それに、こんな可愛い奥さんを一緒になれ
たし、新しい命も生まれたのだし‥。」

そう言うと、俺は再びキズナのお腹を撫でた。ほんの少し、お腹の中で何かが動いたよう
な感触が伝わってきた。

「故郷に着いたら、お料理をいっぱい教えてっ。アイラス様の為に毎日ご馳走作ってあげ
るから、私。」

「ああ、楽しみにしているよ。」

「僕もアイラスさんの故郷の街のガイドだったら、いつでも引き受けるよ。但し、お腹の
子も含めて料金は3人分アイラスから頂いておくからねっ。」

「ああ、それも楽しみに‥ってそりゃないだろっ。」

俺達のやりとりに、キズナがクスクス‥っと笑っていた。

窓の外には、故郷の太陽に照らされ白く光るハンティルの街が遠くに見え始めていた。


(おしまい)

作品名:樹竜の旅 作家名:リュリュー