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リュリュー
リュリュー
novelistID. 15928
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樹竜の旅

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5 神竜の怒り


 横になって目を閉じて間もなく、俺は予め用意されていた半ば強引に担架で運ばれた。キズナを引き離すか危害を加えようとしたら、寝たふりを即座にやめるつもりだったが、
幸いなことに彼女を引き離されることはなかった。途中薄目を開けて辺りの様子を見ると
階段と煉瓦の壁が見えた。どうやら城の更に高い所へと登っているらしい。その間兵士達
は何も言わずにずっと無言のままだった。

階段が終わり、そこから続く狭い通路を通り抜けた時だった。

「うおおおおおっっ!!!!!!!!!!」

前方から妙に騒がしい、かなり広い範囲のあちこちから声が聞こえてくる。

「い、一体何…?」

「シッ…静かに…。」

そっと辺りの様子を伺うとそこは城のバルコニーにだった。俺の前方には国王とその取り
巻きが立ち並び、その先には群衆達がバルコニーを囲むように広がる広場を埋め尽くして
居るのが見えた。
 国王が一度だけ俺の方を振り向いたが、直ぐに前方に向き直ると、胸を張って堂々とし
た体勢で、設置された複数のマイクの前で群衆へと語り始めた。

「諸君、もうご存じだと思うがこの通り我が国に幸運の神である竜様が現れた。この20
0年ぶりの訪問によって我が国にとって歴史的な日となるだろう。本当に竜様が来て頂け
るとは、実に素晴らしいっ!」

誉めまくっては居るけれど、この国王に誉められたって全然嬉しくない。なんだか神様と
いうより、まな板に載せられた鯉になった気分だ。

「この度、この竜様に我々を正統な国の盟主と認めて頂いた。そこで、ここに居る竜を崇
める帝政を、竜様の意向により今後行っていく!」

拡声器から国王の声が広場へと伝わって聞こえてくる。まだ国王の演説に戸惑っているら
しく広場はガヤガヤと騒がしくなってきた。

「よって、近日中に憲法の改正、及び戴冠式を行う。国家として皆の協力を期待したい。」

「大体の状況は飲み込めてきた。あの国王…皇帝になるつもりだな。」

キズナに向かって俺は囁いた。群衆のざわめきが更に騒がしくなり、耳元で囁かないとう
まく聞こえないくらいだ。

「皇帝…?今だって王様だから全然変わらないんじゃ…。」

「いや、そうでもないよ。王様と皇帝だと、法律を作る時の制約が全然違うんだ。例えば
自分勝手な法律も今の国王では作るのは難しいけれど、皇帝になれば簡単に作れる。どん
なにみんなが反対しようと関係ないからね。大方皇帝になって、みんなの財産をかき集め
る腹づもりなんだろう、全く。」

「そんな酷い…!竜神様…、どうするの?」

「潰す。こいつの皇帝戴冠式の片棒をかつがされてたまるか。」

俺はそう呟くとその場でムクリと起きあがった。背後の翼を一瞬バサリと広げると、おお
っと群衆が一瞬どよめいたが、直ぐ前で演説を続けている国王はまったく気づかない。俺
はその国王の直ぐ背後に立つと、出し抜けにでかい声で話しかけた。

「おい、誰が皇帝に認めただっ!?」

「ん?誰だアン…ぎゃああああっ!!」

振り向いて俺の姿を見た途端、国王は飛び上がった。マイクに国王の悲鳴が広場中に響き
渡る。

「りゅりゅ、りゅりゅ竜様!!?」

「誰が竜様だ?俺はこの国を国の盟主だか帝政だか承認した覚えはないし、するつもりは
意地でもないぞ。催眠ガスで寝かせようとして、なにいってるんだアンタ!!」

国王を見下ろすようにして俺は怒鳴りつけた。むろんマイクのスイッチは今も入ったまま
なので、全部の声が広場の全員にまる聞こえだ。

「そういえばアンタ、「命そのものを差し出すことも私にはたやすいことです!」だと言
っていたな。しかも実際にココにいる子を本当にイケニエに差し出して…。国民の命を守
るどころか簡単に売るような国王に、国を治める資格なんてない!」

「りゅりゅりゅ、竜神様…。そ、それは私が進んで言ったつもりではなく…。それに…彼
女も楽園に行くために死ぬのを望んでいて…。」

「そんなの望んでないっ!!」

ようやく喋れるようになりかけたその時、それまで黙っていたキズナが国王の声を遮るよ
うに叫んだ。

「私もうイケニエになりたいだなんて思わない!死ぬなんて絶対に嫌よ!」

「何っ!?」

国王は目を剥いた。余程仰天したらしく、背後に見える尻尾の毛が逆立っている。

「例え天国に行けたって、私は今ココにいるほうがいいっ。だから死んで役に立つよりも、
生きて役に立ちたい!」

「な、なんだと!?こ、コノクソガキ!」

「このワイン縞クソオヤジ!!」

ワイン縞クソオヤジと聞いた途端、俺はたまらず噴き出した。国王の顔はもう真っ赤だっ
たが、背後の護衛達はキズナを取り押さえようとせず、必死で笑いを堪えていた。

 さぁ、こんなやり取りを聞いて群衆が黙って見ている筈がない。

「おいっ、話しが違うじゃねぇか!」

「これはどういう事だ?」「だから言っただろう、あの国王が言いように言ったって。」

「竜様の恩恵が本当に貰えるのか、嘘つき国王め!」

広場の騒ぎは徐々に大きくなっていった。こんな王なんて捨ててしまえ…とか国王を辞め
ろとの声も怒号に混じって聞こえてくる。

「陛下!どうするんですかっ!?」

「こいつらを殺…あ、いや殺したらまずい、な、なんとかし…!!ヒィィ!」

オロオロする国王に向かってキッと国王を睨み付ると、国王が後ずさった。

「もうこれ以上は俺は何も言わん。別にあなたを王の座から引きずり落とすつもりはない。
けれどあなたがやることは、皇帝になることじゃなく王として国を立て直すことだろう。
但し…。」

俺はそこで言葉を切り、バシンッっと尻尾で床を叩いた。その瞬間、ひっ…という小さな
声を上げ、国王は耳をピンッと立てて震え上がった。

「それでも尚皇帝で好き放題するというのなら、俺が相手だ。それとも、竜には効かない
その豆鉄砲で勝負を挑むつもりか?」

竜相手では銃で太刀打ちは不可能、国王もそれは分かっているらしかった。

「う…うう。恐れ…入りました…。」

国王がぽつりと漏らすと、大衆が見ている中、その場へとがくりと俯いた。

勝負あったな…。これでもう大丈夫だろうと内心ほっとため息を付いたときだった。

作品名:樹竜の旅 作家名:リュリュー