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Merciless night ~第一章~ 境界の魔女

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「いかにも。我が名はベライゼレ・ライレル」

「あの第二次世界大戦中、幾万もの列強の軍を壊滅させ、その力は欧米全体を脅威にさらすほどと云われた魔術師。倒した魔術師は数千を越え、そして、一国を護るため自分の身と引き換えにして死んだとされる、私たち魔術団における英雄の一人」

「その通り。だが、我はこうして現界している」

「ええ、その通りね………」

 微かに彼女の額には汗が滲んでいた。
騎士の立っている姿は威風があり、他を圧倒していた。
 ファミーユは落ち着きを取り戻し、両手に長く細く、光る棒を作り握る。
 大きく息を吸い込み、地面を蹴り騎士目掛け突進していった。
大きく振りかざした棒に対し、騎士は手で受け止める。

「腕装備まで対魔術性だなんて………」

 ギシギシと音をたて小刻みに震える腕は、騎士との力関係を表していた。

「魔術師の天敵である我に叶うとでも」

ファミーユは一旦身を引き、体勢を立て直そうと飛び退ける。
騎士は追い討ちを掛けるように、手で引っ掻くように空を切り衝撃波を繰り出す。
 騎士から繰り出される衝撃波は、地を抉る五本の刃。故に、衝撃波は衝撃刃と呼ぶに相応しい。
 それに対し何とか反応し、衝撃刃を避ける。
 再び攻撃を仕掛けるものの全く騎士に歯が立たない。
 幾度と剣戟を交わすも、力の差は圧倒的だった。
 だが、ファミーユは余裕がある表情こぼす。
 何か奥の手があるかのように。
 棒と鎧の腕はぶつかり犇めき合う。

「あなた、剣を使わなくて」

 その問いに騎士は笑う。

「剣、だと………」

 何かを察したようにファミーユは後退する。
 頭を抱える形で騎士は手を添える。

「一つ君たち魔術師は勘違いしている」

 その言葉に、彼女は戸惑う。

「何が間違いだというの………。」

 答えは根本的なことだった。

「我は魔術師ではない」

 場が静まりかえる。全くの予期せぬ答えにファミーユは唖然とした。

「何ですって……」

「よくよく考えるがいい。どこに魔術を無効化できる鎧がある」

 まだ、彼女は答えを導き出せずにいた。

「攻撃魔術への防御方法は二つ。魔術で守るか、打ち消すか」

 騎士の鎧は圧倒的な魔力によって他の魔力を打ち消す。魔術が通じないのは鎧の魔力に対して鎧を攻撃する魔力が低いため。
 騎士の答えに、彼女は一つの結論を導き出すことができた。騎士もそれを感じ取り、喋り続ける。

「そう。この鎧は強大な魔術によりできている。そしてこの鎧は武器でもある」

 それは騎士に魔力がないことを意識させた。
 簡単な答え、それ故に導き出せなかった。
 騎士はその鎧を纏い幾多もの魔術師を死に至らしめた。そのため魔術団は畏敬の意を込め、鎧をある名称で呼んだ。

「『万人の惜敗』。見よ。この鎧に染み付いた数多くの魔術師の血。元は純白であった鎧は大量の返り血を浴び、今の漆黒の鎧となった。それでも挑むか、魔術師よ」

 この状況において不適な笑みをあげる。
 それが誰かというのは容易に分かる。

「あなたも一つ過ちを犯しているわ」

 騎士とファミーユとの力の上下関係は、すぐにひびが入った。
 いや、既に判明していた。
 騎士は誰の命があって死地へ赴いていたのか。
 誰の命で国を守ったのか。
 誰の命で秩序を守ろうとしたのか。

 ―――――組織は誰が動かしているのか。

「ベライゼレは誰に主従しているの?」

「―――賽の目にのみ」

「賽の目の命には」

「―――絶対の服従を」

「あなたの命は」

「―――賽の目に捧ぐ」

「なら」

「全ては過ぎたこと。今はギガスに我が命を置き、主としている」

 決して騎士の意思は揺るがない。

「―――それが騎士道」

「なら、その望みどおり葬ってあげる」

「たかだか小娘風情が、我を倒すとでも」

「ええ。それが主人であった者の役目ですから」

 騎士は彼女の言葉を聞き驚くより寧ろ、歓喜に沸く。

「―――そうか。貴公が賽の目の一人であったか」

「ご名答」

 騎士はクスクスと笑う。

「これは悲運か、否。……運命か。ならば裏切りの使徒として」

「ええ。あなたを煉獄に送ってしまった主人として」


























「「この運命に終焉を」」


















 
 半径十メートルのクレータの中、二つの風が渦を巻きぶつかる。
 異様な魔力の感じ。そこから、これから行われる戦闘の激しさを予期していた。
 ファミーユの両手に握られる輝く柱は大きさを増し、黒き騎士の回りには黒き液体が渦を巻く。
 
 二つの風の渦は一瞬揺らぎ、消滅する。

 ――――開戦。
 
 先ほどと同じ剣戟。ファミーユの攻撃に腕で応戦する騎士。見た目は何も変わらない。だが、一つ一つの攻撃に風圧がかかり辺りの土を吹き飛ばす。
 一撃一撃が強く激しいことを土は語る。
 両者の手は緩まない。
 ファミーユの持つ鋭い柱は輝きを増し、騎士の腕は赤く燃え滾る。
 動きに隙を見せず一身一体の攻防。
 騎士の放つ衝撃刃を薙ぎ払い、鋭き柱で一撃を食らわせ退く。再度近づき二撃。
 ファミーユの攻撃は見切られているかのように、そのことごとくは防がれ騎士の反撃を待つ。
 手を抜いているわけではない。決着がつかないのは両者の強さを意味していた。
 
永遠に続くと思われた。





 
「全てをここに」






 騎士の攻撃が止まる。
 その代わりに騎士の背後から巨大な自身の幻影が現れる。

「Est cassé qu'un récipient, et le fait; un pouvoir magique(魔力は我が鎧の臓器に注がれ全てを喰わん)」

 騎士の周りを黒き液体が波を立て囲む。

「Je bois le corps et suis raffiné(忘却せし涙は我が血に)」

 ファミーユは成人のいる、クレータ外部に退く。
 空気は二人の肌を刺し刺激を与える。
 今までとは違う、大地の震動を感じさせる。
 空気は重くなり、重力が増す。

「La compensation ici.Pitié(幾多もの惜敗はここに、一振りの刃を授けん)」

 鎧の腕の一部分が溶け、騎士の両腕から現れる槍のような長剣。
 柄は銀に輝き、刀身は黒く光る。
 両手に現れたその剣は見るものを釘づけにする。
 騎士の姿をただ見つめることしかできない二人。
 何も予測することはできない。そういえるのは魔術(非現実)という概念がこの場を支配しているから。その束縛された考えの前に二人は立たされていた。


「成人、私たち勝てるかしら?」

 ぼそりと弱音を吐くファミーユ。
 横にいる少年は答えに迷った。状況からして戦力は五分五分、若しくは押され気味に見えたからだ。

「勝てる。そんな気がする」

「何よそれ」

「気休めに絶対を付けて“勝てる”と言いたいが、そこまでオレの肝は強くも無ければ、精神的にもまいっている」

「あら、………それじゃあ仕方ないわね」

 少年の答えに彼女は肩を落とす。
 二人は騎士に眼を向ける。