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Merciless night ~第一章~ 境界の魔女

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 騎士を囲んでいたものは全て、騎士の背後に映る自身の巨大な幻影も消えていた。


「自己装縛を知っているか?」


 騎士はクレータを登り歩き始める。
 その問いかけは成人にとっては意味不明のもの。代わりにファミーユが騎士の問いに答える。

「ええ。知っているわ。『多角術界』の一つ。自身を強化する類でしょ。でも、何?別にあなたが持っていようが驚きはしないわ」

 魔術師自身が持つ得意魔術を極めた果てに辿り着ける固有の魔術。それが『多角術界』と呼ばれている。これには部類がされており、自身の強化型を『自己装縛』。ある一定範囲を自身の魔術で覆い効果を発起するものを『幻覚現鏡』。平行世界全てに影響を与えるものを『極終結』。その他分類不可能なものを『理壊』、とされる。多角術界を習得できる魔術師は少なく、その習得者は世界で53人とされている。

 騎士もまた、その中の一人である。


「ほう。だが、我が持っているとは言ってはいない」

「それって………」

「我は魔術師ではない。故に、この鎧こそが自己装縛そのものだ。幾多もの戦いにこの身を捧げ、多くの魔術師を葬った結果だ。運命は我に力を授けた。我はそれに従うのみ」

 ファミーユはただ騎士を見る。
 見つめるでもなく、目を開き騎士のほうを向いている。

「ファミーユ。魔術師でない者が魔術を使えるのか?」

少年は一瞬、頭に浮かんだ疑問をファミーユに聞いた。

「使えるわ。魔法具とか、知識があればね」

「ストックってあるのか?」

「ええ、ちゃんとある。魔力が続く限りわね」

「もしあの鎧自体が自己装縛とかなんかの魔術って言うのなら、その魔力の供給源は何なんだ。そして、魔法具なら誰が渡したんだ、あの鎧を」

「供給源は所有者の魔力から、もしくは他人の魔力から。“あれ”を渡したやつは知らないわ」

「あの鎧は倒した魔術師の魔力を奪っていたと考えてもいいんだな?」

「そうね」

 面倒くさそうに返事をする。

「最後の質問。ヤツは本当に魔術師じゃないのか?」

「何それ?」

 勝手な先入観からくる不確定な事実。それ故に、彼が魔術師という可能性も曇らせ、ないものと想像し、いつしか簡単な答えを見失う。
 異常だから見逃す通常。騎士の話術に二人は翻弄されていた。
 だがここに来て、少年は一つの答えを導き出す。
 
「魔術団には魔術師しか入団できないんだろ?」

「ええそうよ。でもあなたが言いたいのは、魔術師じゃないのになぜ入団できたのってことでしょ。そんなの“あれ”を持っているからじゃない」

「そこらの人間に、魔術団に入団していない者にあの鎧を渡すのか?」

 沈黙の時間が流れる。
 ファミーユは小声で喋る。

「成人はあいつが魔術師だって言うの?」

「ああ。そうした場合の弱点もある。それは……」

 ファミーユはオレの口元に人差し指で触れる。

「だめよ……。私を誰だと思っているのかしら?」

 その言動から成人の解答を先読みしたことを意味していた。
 騎士がクレータを登り終える。

「避けないでよ!」

 ファミーユは騎士へいきなり飛び掛る。
 剣と剣がぶつかる音。実際は剣と光る鋭い柱だが。
 騎士はファミーユの行動を予測していたように、剣と柱がぶつかる位置に剣を構えていた。

「甘いな、貴公は」

「何が?」

 騎士の弱点を知ったファミーユは、“抜かりない”そう思っていた。
 ファミーユの知っている弱点とは騎士は長期戦に弱いと言うこと。鎧の魔力の供給源は魔術師からだ。しかし、魔術師は1回他界し鎧の供給源は断たれている。大量の魔力により長年魔術により具現化している鎧も、供給源が無ければ、貯蔵する魔力を失っていくのみ。そこから、長期戦に持ち越せば騎士の魔力は無くなり、勝機を大きく手繰り寄せることが出来る。ファミーユは自身の持つ魔力に絶対の自信があった。それが彼女の騎士に対する強みであったが、考えが浅はかだったことを思い知らされる。

「貴公の魔力は軽く我を超える。しかし、その魔術の使い方によっては貴公の魔力を上回れる」

 柱にひびが入る。

「え………」

「貴公の魔力を千としよう。そして、我が魔力は百とする」互いに剣と柱を交える。「貴公は魔力を全体に均等に振り分け我と対峙している」騎士の剣とぶつかる度に柱のひびは広がりを増す。「しかし、我は己が魔力を一点へ集中させ貴公と対峙している」

 ファミーユは気づいたが遅かった。
 剣と柱がぶつかり、そのまま刃を交えたまま停止する。

「そう。我が対峙しているのは千の魔力ではない」片手の剣を柱に当てたまま、もう一方の剣を大きく振り上げ柱にぶつける。「割り振られた十の魔力に対し、我は百の魔力で挑んでいるのだ!」

 大きく振りかざしたにもかかわらず、剣を振る速度は速く、通常の剣捌きとほぼ変わらなかった。
 振りかざされた剣圧に柱は耐えることなく、両手の柱は脆(もろ)くも崩れさる。騎士は間髪いれず次の攻撃に移る。
 振りかざしたもう一方の別の剣で、ファミーユの腹へ目掛け突く。
 両手にあった柱は消え去りファミーユを守るものは何も無かった。

「こんのっ!」

 ファミーユは右手手の平を自分に近づく剣へかざす。
 右手から現れた薄っぺらい円形状の魔術式による盾は剣を食い止めた、かのように見えた。

「―――温い」

 刹那の内に剣は盾を突き抜け目的の場に迫る。
 ファミーユは剣の刃先が“そこ”に届く前に回避した。が、腹には切り裂かれたような痛みが走る。

「痛っつ………………」

 確かに避けたはずだった。剣の刃先は届かず空を切ったと思った。
 ファミーユは腹を片手で押さえ膝をつく。
 その光景を見た騎士は剣の刃先を地面に向ける。

「一つ教えておく。我が持つ自己装縛の名は『魂炉』と言い、この剣の名はハルバードと呼ぶ」

 それを聞きファミーユは少し笑みをこぼす。

「ハルバードって、斧とか槍の名前じゃないの?」

 騎士も笑いで返す。

「ふんっ。その通り。だが、それこそが油断を生む。我が自己装縛の能力は武器の能力を生かすことにある。」





 
 ――――――――過去にさかのぼる。





「我は昔、使い慣れた剣を戦争中折ってしまった。そこは戦いの場、武器が無くては殺されるのみだ。そこで近くで戦死した兵士が所持していた武器、ハルバードを使いその戦いを切り抜けた。だが、我の本来の武器は剣だ。あまりにその長槍は使いにくかった。そこで、鍛冶屋に頼み、この鎧の一部と共にその槍を溶かし剣に鍛え上げてもらった。我はその剣を貰い戦場へむかい、早速その剣を使い戦った。だが、妙なことに刃の長さと攻撃範囲は一致していなかった」

「何それ?」

 ファミーユの言葉に騎士の右手に持つ剣の剣先が元主へ向けられる。

「無論、答えを知っていての発言だろう」

 刃先はファミーユに迫る。
 ファミーユは刃の軌道を読み回避する。
 獲物を見失った刃は空を切る。











「――――――さて」再び剣先はファミーユに向けられる。







「そろそろ終止符を打つか」