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Merciless night ~第一章~ 境界の魔女

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「何よ、ビックリさせないでよね」

「ご、ごめん」

 オレには聞こえた。自分でない誰かの声を。確かに聞いた。だがファミーユは聞いていないといった。なら、誰が……。

「何浮かない顔しているの?」

「ああごめん。少し考え事を」

「ねえ何か思わない?」

「思うって何をだ?」

 思い当たることなど何も無い。

 ―――何かを思い、思うことなど不愉快だ。壊し全てに崩落を。

「ファミーユ!何か聞こえなかったか」

「何も………」

「キャー!」

 教室を出た廊下から声が聞こえた。

「いくぞ!ファミーユ。覚悟と準備はできてるか?」

「ええ。大丈夫。行きましょ」

 イスから立ち上がり急いで教室を飛び出し、声が聞こえたところへ廊下を駆ける。ファミーユもオレに続き駆ける。その途中、悲鳴がどこか聞き覚えのある声であることに気がつく。

「まさか……」

 声が聞こえた場所へたどり着く。そこには想像通り坂宮がいた。
 坂宮は漆黒の鎧を纏った騎士のようなヤツに抱きかかえられていた。

「坂宮を離せ!」

 咄嗟に叫ぶ。

「来たか……」

 騎士からは低い男性の声が聞こえた。
 ファミーユが前へ出る。

「へえ~。魂を鎧に定着させたの。いったい何のまね。魔術師の規定は一般人を巻き込まないことよ」

 騎士は弁明することなく唯一言、

「―――ギガスに忠誠を」

 鎧の周りから黒い液体が噴出し、鎧自身と坂宮を包み込む。

「坂宮!」

 それを追おうとするオレをファミーユが手で遮る。

「あれは“転蝕”っていう魔術よ。地面に穴をあけそこに入り、もともとの掘ってある穴から抜け出すっていうもの。つまり、ブラックホールとホワイトホールってわけ。でも穴に閉じ込めることもできる。今行けば危ないわ」

「じゃあもとの穴を見つければ」

「そう。魔力を感じることができるから、そう遠くないわ」

「急ごう」

「ええ」
 
 放課後の伽藍とした長い廊下を走る。
 
 漆黒の騎士。

 ギガス。

 全くどうかしている。

「一つ疑問がある」

「何?もしかしてギガスのこと」

「それだ。いったい何なんだ?ギガスっていうのは」

 走りながらお互い顔をチラチラ見ながら喋る。

「ギガスっていうのは私たちと対極にある組織のこと。違いは……秩序を壊すか、護るかっていうところよ」

「具体的に」

「この世にあってはならない理を犯す者と、それを食い止める者」

「そうじゃない。オレが聞きたいのは秩序を壊すという根源たるモノの事を聞きたいんだ」

 一時、オレの知らない間が空く。

「―――あなた、ヴァルハラを知ってる?」

「何だ。そのヴァルハラっていうのは」

「簡単に説明すると神話よ」

「―――神話」

 求めた答えのたどり着いた先に困惑する。
 オレの考えでは一つの兵器と思った。だが、ファミーユは神話という。仮にギガスが神話のために魂の収集をしているのならば、それは殺人鬼に他ならないジェノサイドと同じだ。なぜなら、神話ということは空想と同じだからだ。
 そんな絵空事で人を手に掛けるなんて……。
 ただひたすら実態のないものを追いかける集団。
 ファミーユはあえてヴァルハラについて隠したのか?
 
 もし空想を追い求めるなら………、なぜ集団を作る。
 
 なぜ組織でやっていける。
 
 なぜ魂を集める。
 
 空想を追いかけてるのでなく、この世の真理をギガスは知っているのではないのか。
 色々な思いを胸にしまい、坂宮を助けることに専念した。
 ファミーユに先行してもらい学校を後にする。

 
 ファミーユ。この世界で何が起きているんだ?





 学校を出てから数十分は走り続け、都市外れの大きい広場に出た。確かここは売却地だったような………。

「ここがブラックホールを抜けた、ホワイトホールがある場所なのか?」

「ええ。間違いないわ」

 彼女の表情から自信が窺えた。
 到着してちょうど、黒い液体のようなものと共に騎士と、それに抱えられる坂宮が姿を現した。

「見つけたわ」

 騎士は驚いた様子はなく、待ち構えていた様子だった。

「ここならば存分に事を構えられよう」

「その通りね。で、結界は張らないわけ?」

 騎士の鎧が少し上下に動いた。

「まさか、この身で結界など張れまいて……」

「あらごめんなさい。察する事ができなくて」

 嘲笑うファミーユの言動に騎士も応える形で、

「基より、また現界できるとは思ってもみなかったからな」

 挑戦に乗る気も無いようにみえた。

「さて、本題に入ろうかしら。」

 ファミーユの視線が鋭くなる。
 その視線は真っ直ぐに騎士の姿を差していた。

「その子をどうする気?」

「―――我に回答権などない」

 騎士はそっと坂宮を地面に下ろす。

「我が使命は貴公の抹殺のみ託された」

「ならその子は関係ないでしょ」

「我に回答の是非もなし」

「どうして騎士ってこうなのかしら。なら力ずくでってこと」

 騎士は静かに頷く。

「いいわ。その代わりその子に怪我をさせないよう離しておいてもらえるかしら」

「―――承知」

 坂宮の体は宙に浮きこの場から少し離れていった。
 その直後、空が赤黒く変色した。

「結界?」

 ファミーユの疑問に騎士が答える。

「その通り」

「あっそ。要するにあなたを倒さない限り、彼女を助けることはできないってことね」

「その通り」

 ファミーユは納得したようだった。

「本気でいかせてもらうわよ」

「いざ、雌雄を決しようぞ」

 オレは二人の間に立ち入ってはいけない空気を悟り、ただ戦闘を見守る傍観者役を務めることにした。
 広場には静寂が漂い、決戦のときを迎えた。

 
 向かい合う二人。先にファミーユが動く。
 口から出る言葉と共に魔術式が円を描く。
 そして、球体のようなものが、魔術式の周りに浮かび上がる。
 球体は黄色にひかり、輝いている。小さく太陽を縮小したような形。
 それらは大きさを増してゆき、騎士目掛け射出された。

 その直前、騎士の腕が赤く染まっているように見えた。

 射出された球体は呆気なく、騎士に切り裂かれた。

「へえ、やるじゃない。でも―――」

 騎士は後ろを振り向く。が、遅かった。
 ファミーユは弾を射出すると同時に、騎士背後に回っていた。彼女の手には輝く球体の光があり、騎士の頭部を捕らえていた。
 大きな爆発音の後、辺りには焼け焦げた匂いがたちこめる。
 騎士がいたところは煙が充満し、何も見えなくなる。
 スタッと音を立て成人の横に着地する。
 やがて煙は拡散してゆき、消えていった。

「嘘でしょ!」

 消えた煙の先には大きなクレータと、その中心で無傷で立っている騎士がいた。
 騎士はゆっくりと二人を見上げた。

「なかなかの俊敏性だ」

騎士は動き出す様子はなくその場に立ち尽くす。

「対魔術性の鎧とでも………。」

 ファミーユは何かに思い当たり言葉を失う。

「まさか……、魔術団で死後讃えられている『英雄13帥』の一人とでもいうの」

その問いに騎士は答えた。