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Merciless night ~第一章~ 境界の魔女

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「あれ?魂を抜かれた人間よ。もう自己に意志はなく、空っぽの人形」

「人形ってことは誰かに操られていたのか?」

「ええ、そうね。でも何で操られているって分かるのかしら?」

「自分でさっき言ったろ。自己に意志はないって。なら操られる意外に奴らは行動ができないだろ」

「よく考えればそうね。でもあんなに多くの人の魂を抜くなんて」

「魂を抜かれたら、人へ戻ることはできないのか?」

「分からないわ。でも人へ戻れる可能性は低いと思うわ。例え魂が自身に戻ったとしても、身体を空けた時間が長ければ、内臓器官は正常に機能しないかもしれないから」

「そうか」

「まあ、魂が抜けた後、元に戻るって言うのも根本的に無理な話なのかも入れないけど。それにしても成人って不思議ね」

「何が?」

「いやなんでもない」

「そうか。時間も遅いし話はこれくらいにするか」

「成人って門限厳しいの?」

「何でだ?」

「だってまだ時間は長いわよ」

「そりゃあそうだが、そっちに時間はないだろ」

「そうね。魂を抜いている奴を探さないと」

「今日はありがとな。じゃあまた」

「ええ。また会えるかしら?でも次は私から会いに行くかもしれないわ」

「そのときは歓迎しよう」

「ありがと、またね」

 近くの時計を見る。午後5時30分。
 辺りを見渡せば闇は晴れ、夕暮れへと変わり横にいた女性は消えていた。
 ついでに公園の遊具、その他もろもろも、何事も無かったかのように修復されていた。



 












 ガチャ。
 自宅のドアを開ける。

「ただいま」

 誰もいない空間に話しかける。その後、靴を脱ぎすぐに2階の自分の部屋に駆け込んだ。

「ただいま」

 またも誰もいない空間に話しかける。これは末期症状かな。
 ベッドに寝転がり深いため息を吐く。どうやら自分が考えているよりずっと、この身体は疲れているのかすぐに睡魔がきた。
 
黒に侵食される空。

自分の知らない空。

現実の裏にある空。

全ては真実(ほんとう)であり嘘ではない。

――――――仮定しろ。
貴様の学生生活は非であり常でない。

――――――統制しろ。
状況合理化、非を現とし、常を夢とせよ。

Cross of axis(軸変換開始)。











「ふぁ~。よく寝た」

 そういえば昨日制服で寝たのか?
 窓からは太陽からの輝かしい光がベッドを照らす。何事も無く1日が始まる。
 ベッド横の時計に手を掛ける。時刻は6時30分ごろか……。

「よし。今日は朝早くから登校するか」

 2階の自分の部屋から1階リビングに降り、簡単に朝食を済ませ家を出た。
 家の家賃はなぜか未納でいいと大家が言う。両親はおらず、初めから居たのかも記憶があいまいだ。だが、オレが現実(ここ)に居る時点で両親がいる事は確定している。気づけばこの家に住み、それが当然かのように、今普通の生活をしている。 疑問に思う点はいくつもあるが、あまり気にすることはなかった。それに慣れたのか、それを受け入れたのか。自身にも不明な点が多くあり自分を把握仕切れていないのが現状である。だから、多々ある疑問の中だけでも自身の究明だけはしたかった。
 
 

 いつもの桜並木の道を歩く。心地よい風が吹き、桜の花びらをさらって行く。舞った花弁は地に落ちアスファルトをピンクに変える。こんな風景も一時だけ。時が過ぎれば色は緑に変わり行く。
 四季の変化。
 まだオレはこの土地の冬と春しか知らない。
 冬は寒かった。身も心も体温も。家に暖房器具は一切無く、唯一体を温められるものがあるとすれば、ガスコンロと、布団と、毛布だけだった。
 冬になったら近くの電気屋さんに暖房だけでも付けてもらうか。
 冬が待ち遠しい、って気が早いか。
 あれこれ考えているうちに学校が見える。

「あれ?校門に人影が」

 朝早く来たというのにもう登校しているヤツがいる。まあそれも当たり前か。自分より早く起きるヤツは普通にいる。

(ん?)

 見た感じその人影には見覚えがあった。容姿はかっこいいと綺麗を足して半分に割ったような顔。つまり、容姿端麗。常にコンパクトな淵がない、黒色のメガネをかけている。

「おい。公林」

 相手から100メートルぐらいの距離間で叫ぶ。
 オレが呼んだ人影はこちらを向き、右手を挙げる。
 どうやら校門に見える人影は公林のようだ。
 オレは100メートルの道を駆け抜け公林のところへ急ぐ。
 100メートルくらいならなんとも無いと思ったが、相当心臓にくる。オレは息を切らしながらも公林のところへたどり着き、ひざに手を置き前かがみになる形で立った。

「こんな朝早くに奇遇だな、成人。今日何かあるのか?」

 爽やかな声だ。

「何も…無い……が、ちょっと……気まぐれで。公林は……どうして」

「ああ、朝の散歩がてら学校で勉強しようと」

「そ…そうか。さすが……学園一の…天才だ」

「そんなことはない。やる事さえきちんとやれば君も出来るよ」

 さらっとそう言いオレの肩に手を置く。なんだか分からないが、公林の発言には人を頑張らせる力がある。その力によりオレもできるような気がしたが、そう簡単にできればどれだけ楽だろうか。
 公林 久基は学園一の天才であり、成績はトップで、本学園の特別待遇制度を受けている。
 ちなみに特別待遇制度とは、成績上位3位以内の者は、学園への登校は自由となり、不登校であっても出席扱いとなるもの。つまり、授業への出席も自由となる。この制度を受けるか受けないかは本人の意思決定に任されている。
 現在この制度を受けているのは公林のみ。公林は家が貧しく、父親は久基が小さい頃に他界し、母親は今病に伏している。そのため家に人手が足りず、代わりに久基がアルバイトをしてお金を稼いでいる。家計は母親の実家の仕送りとバイト代でギリギリ保っているらしい。他、成績優秀者二人のうち一人は池井で、もう一人は知らない。二人ともこの制度を受ける気は無いらしい。
 池井曰く、学園のアイドルがみんなと同じ生活を送らなければアイドル失格だ、とのこと。
 少し時間がたったことで呼吸が落ち着ついてきた。
 そういえば、公林は休みを取っているのだろうか。聞いた話だと毎日アルバイトだとか。迷惑かもしれないが誘ってみるか。

「公林、今週の土曜日空いているか?」

「空けようと思えば空けられるが……、何かあるのか?」

「オレとお前と、池井と他3人連れて花見に行かないか?」

「花見か。確かに来週になると桜が散っているかも知れないからな。分かった。その日は空けておくようにするよ」

「ごめん、忙しいのに」

「いいさ。こちらこそありがと。俺を心配しての気遣いだろ」

「おみ通し、というわけか……。じゃあ今週の土曜日な。必ず」

「分かった。またな。あと何か用事があったら図書室に来いよ。いつでも相談に乗るから」

「そのときはよろしく。体に気をつけろよ」

 公林を生徒玄関で見送った後、深いため息をつく。

「とっさの思いつきで花見に行こうと言って許可もらったのはいいけど、池井は連れてけるのだろうか?」