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Merciless night ~第一章~ 境界の魔女

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 平然と男を見る。あれ……、今気がつけば恐怖というものがない。ただ前にいるヤツ(男)の姿が醜い。それしか感じない。でも体が動かないのはなぜだ……。
 立ちすくみ。いや、まるで体が男を待ち受けているような感じだ。近寄ってくれというような……。
 男が自分と1メートルの距離まで迫る。
 体は何の抵抗もなく膠着していた。

 サッ―――。

 何者かが間に入り男を蹴飛ばす。

「あなた何やっているの?危ないからどきなさい!」

 目の前には茶髪で長い髪にくせっ毛がある髪型の女性が立っていた。
 現れて早々怒鳴られた。
 見た目状この人強そうと、率直に思った。

「何ぼさっとしているの。早く遠くへ逃げなさい」

 どうやら焦っているようだった。
 オレがここにいるからか?

「すまないが見物させてもらう」

「はあ?」

「言葉の通りだ。使うんだろ、魔術」

「え……」

 女性はオレの方を見るなり、

「ええ……、いいわよ。あなた……、それならそうと早く言ってよね」

 一変して明るい声になる。
 いったい何のことか分からないが頷く。

「さ、見ておきなさい」

 女性は指を鳴らす。すると男の体は燃えてゆき2秒たらずで跡形もなく消えた。

「ま……、マジック」

「そうよ。魔術」

 女性が振り向く。
 驚きのあまり、オレは開いた口が閉まらない。
 それを見かねたのか、

「何驚いているの?あなた自分から言ったじゃない。魔術使うんだろ?って」

 ようやく開いた口が閉まる。

「もう……どうしたのよ。で、感想は?」

 女性の顔が自分の顔に迫る。距離的にはキスができるほど。

「え……ああ、スゴカッタ」


 顔を急に迫られたことからくる恥ずかしさと、あまりの容貌の美しさに、つい片言になってしまった。

「すごいって何よ。もっと具体的には?」

「え……っと、何かこう……ぱぁーっとして、ボォーってな感じで」

 さすがに自分でもこの感想にはうんざりした。幼稚だ。
 当然その感想で納得してもらえることなく、

「へぇ~、そう。そんなにつまらなかったの。じゃ……」

 何かを女性が言いかけたとき、何かの気配に気づいたのか急に辺りを見回す。

「やられたわ」

「は……」

 何を言っているのか意味が分からなかったため辺りを見回す。
 するとそこには、先ほどの男性のような顔つきの化け物が溢れていた。

「囲まれたわ……」

 緊迫した状況に顔を顰(しか)めていた女性だったが、一変し何かを思いついたように手のひらを叩く。

「ちょっとあなた。次こそはちゃんと見ておきなさい。あなたみたいな無関心なヤツでも驚きの一発をかますから」

 はぁ、の一言に尽きる。今の感情は早く帰りたい。それだけだった。
 周りの化け物はぞろぞろと近づく。

「見ておきなさい」

 自分たちの周りに線が描かれていく。
 ただオレは描かれてゆく線をじっと見つめる。
 何も考えず、ただぼーっと。
 描き終えたのか線を書く手が止まる。

「い・く・わ・よー!」

 勢いよく叫ぶ。

「Wing hazard(名も無き天使の哀愁)」

 見えない壁の衝撃波が化け物らを呑みこみ全てを無にする。もちろんのことだが、公園の遊具も被害を受けている。
 ここは……もはや公園などではない。空き地、それより荒野のほうがこの地に相応しい。

「どう?すごかったでしょう?」

 満面の笑顔で振り返り尋ねる。

「ああ、被害総額は相当なものだろうな」

「ちょっと、そういうことじゃなくて」

「ここの土地改修にどれくらいかかるだろうか」

「だから……」

 そっと女性を見る。少し顔色が曇って見える。
 ここまでにするか。
 さすがにこれ以上は良心が痛む。

「すごかったよ。さすがにオレも驚いた。どれくらいかと言うと、声が出るほど驚いた」

「今頃褒めて貰っても遅いわ」

 完璧に拗ねてしまっている。

「ごめん。だが、本当に助かった」

「あっそう。ま、無事怪我も無いわけだし、どういたしましてってところかしら」

「ところで、名前は?」

 兼ねてからの疑問だった。ずっと主語なしでの会話は難しい。

「ああ、まだ名乗っていなかったわね。私はファミーユ・リ・ルーシェ。あなたは」

「真隼 成人。双葉目学園二年、17歳だ」

「自己紹介に歳も必要?」

「いや。女性に歳を聞くのは失礼だから、別に言いたくなければそれでいい。その実聞きたいのが本音だが」

「別にいいわよ。私の歳は、ええ……と、8……」

 8……何なんだよ。18の年上か、それとも81の歳なのか、それとも28歳のお姉さんか……。

「確か……、812歳」

「そうか812歳か……」

「あれ、驚かないの?」

「年なんて関係ない」

「は……?」
 
「オレに年など……」

 つい気が動転し、わけの分からないことを喋った。
 相当812歳という言葉が応えているらしい。

「まさか、812歳って本気で信じちゃった?」

「え……、違うのか」

 少し希望を持つ。まだ神はオレを見捨ててはなかった。

「実は180歳ぐらいかな」

「だよな」

 少し希望を持ったオレがバカだった。それでも約600歳の誤差があった。それでもオレには救いだ。まだ、180歳。









 公園から外れたところのベンチに腰をかける。その横にファミーユが座る。
 やっと何かから解放された気分だった。
 目を閉じ1日を振り返る。悪夢のような出来事が多くあったように思える。でも、それら全ては現実。目を逸らしようがない今がある。
 
 受け入れるのは簡単だ。
 
 問題は自分の許容の範囲内か否かだけだ。
 結果的にこの事件も自分の許容の範囲内なのだが、まだ自分の限界を知らない。それに対する恐怖心があった。

「ねぇ?私の無詠唱魔術に、魔術名破棄はすごかった。感嘆した?」

「なんだ、そりゃ」

「知らないの?通称『魔術の至り』ってものよ。本当は、魔術名破棄は無理というのが魔術界の考えなのだけれど、高位の魔術師になるとそれが可能になるの。威力はガタ落ちだけどね。無詠唱は、普通か」

「それは初めて聞いた。ファミーユはすごいんだな」

 何がすごいか分からないが褒める。勿論のことだが、オレは魔術界云々のことなど頭に無い。

「………」

 ファミーユの返答がないことに、不思議に思い顔を覗き見る。
 ファミーユの顔が少し赤く見えた。

「どうしたんだ?」

「いや……、初めてファミーユって呼ばれたから……」

「え!呼ばれたこと無かったのか?」

「ええ。私はずっとお嬢様や、姫、ケイトで名が通っていたから」

「そうか。ならオレも言葉をつつしみ次からはお嬢様と呼ぶか」

「別に気を使わなくてもいいわよ。できれば……その……」

「ファミーユのほうが好ましいか?」

「そう、それ」

「わかった。そう呼ぶことにするよ」

「ありがとう」

「なにも、お礼を言われるようなことはしちゃいない」

「でも何か言いたかったから」

「そうか。こちらこそありがとな。ところであのゾンビのような奴らはなんだ?」