隠れ森のニジイロトカゲ
第6話 ガラスのしっぽ
クリスタルバニーは息を切らして、光の街へと繋がる扉に、間一髪で飛び込んでいました。そして扉の門はクリスタルバニーを飲み込むと、「ドン」という大きな音をたてて閉じました。
その時でした。記憶の忘れ物がハッキリと、クリスタルバニーの中で甦ったのは。
「あっ!ニジイロトカゲと一緒に帰らなきゃ。」
「ねぇー誰か!この門を開けて!」
「わたし、ニジイロトカゲと一緒に帰らなきゃいけないの!」
「ねぇ、誰かー!」
クリスタルバニーは必死に、閉ざされた扉を叩きながら叫びましたが、もうその扉は開くことはありませんでした。
「ねぇ、誰か…。ニジイロトカゲ…、死んじゃうよ。」
クリスタルバニーはそう言って扉に寄り掛かり、手に持っていたシッポを握りしめて泣き崩れたのでした。
それから幾年の月日が流れたことでしょう。
あの日以来どうしたことか、金色のフクロウグラパールは、ミゾーの前に現れることがなくなっていました。
いいえ、グラパールは隠れ森ばかりでなく、何度かミゾーの前に現れ光の街へと帰って行た、東西南北の街に散らばっていた光の街の者たちすら、ミゾーがクリスタルバニーと出会ったあの頃から、金色のフクロウの噂は、ひとつも聞かなくなってしまったとのことでした。
それからまた、数十年が過ぎて行きました。
最近では、隠れ森に迷い込んで来る光の街の者たちの姿もなくなり、ミゾーは本当にひとりぼっちの時間を、長く過ごすようになっていました。
作品名:隠れ森のニジイロトカゲ 作家名:天野久遠